↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大滝の石と黒猫のはなし  作者: ぽすしち
十六

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/67

ただそれだけ


 この、文字を書いた紙でつくられたおかしな《囲い》の真ん中で《浮いて》いる、黒く長い刀が、まるでなにかに耐えているかのように、小刻みにふるえている。


 なにかの仕掛けがあるのを願いながら、刀をいろんな方から眺めてみた。



「 ヒコイチどの、残念だが、浮いてるのは刀がおのれで浮きたいとおもっているからだ。 おれがさっきどうにか『おさめ』て、飛び出すのだけはとめたがな」


 むこうに立ったままのジョウカイは、困ったものを眺めるように刀をながめ、腕をくむ。



「 こりゃ、・・・ひょっとして・・・、あの、あれですかい? 人の血を吸って『呪われた刀』とかいう」


「はあ?そんなんじゃあねえが」


「なら、・・・まだいいや」

 どうりで、こんなに近づいてもまだ寒気がしないわけだ。

 ヒコイチは息をつき、首の後ろをなであげた。




「 ―― 言っておくが、おれはな、『先読み』はするが、手出しはしねえよ。 いや、しねえんじゃあなくって、できねえんだ」

 腕をくみ、浮いた刀をみたままの坊主が、これからヒコイチが頼もうとしたことを『読んだ』ようにはなしだす。

「 ・・・たしかにおれは、この先に起こることを夢でみる。そうしてそれが、そのうち起こる。 ・・・若いころはな、それこそセンネンみてえに、何度もそれを、『まげよう』としてみたさ」



「・・・まげられなかった、ってことで?」



 その問いに、笑うように息をはき、「ああ」とうなずく男の眼は、深く静かだった。


「 ―― おれができるのは、それが起こった後(あと)の『始末(しまつ)』だけよ」

 『始末』という言葉は、あざけるようなものだった。



「 それでも・・・、 それでも、あんたのお弟子さんは、それを『まげる』つもりだ。もちろん、おれもだ。 なあジョウカイさま、その『先読み』で起こることってのが、《いつ》起こるかってのは、わからねえのかい?」


 ヒコイチの言葉に、ジョウカイは首をふった。


「つまるところおれも、その夢を《みせられてる》だけでな。人の世の坊主とおなじで、おれよりも強い力に遊ばれているようなものだ。 『さきよみ』で『みた』人に近づいて、夢とおんなじことが起こるとき、・・・そばにいてやるだけ。ただそれだけよ」



「『遊ばれて』・・・」

 ここに戻ったらジョウカイの首を締めあげてでも、カワキタ屋におこる惨事のことを聞きだそうと思っていたのに、そのくるしげな顔を目にしたいまは、そんな気も失せてしまった。


 ジョウカイ自身が『先読み』だけしかできぬ自分に、若いころから苦しみ、あきらめているようだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。