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大滝の石と黒猫のはなし  作者: ぽすしち
十六

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44/71

さいごまで




 十六、



   ヒコイチは戸口で見送る三人に、「急いで戻ってくるからよ」と約束した。



 マツキチがセンネンに、「おまえも法事が終わったらこられるのか?」と、としかさのように聞いている。 センネンは怒った様子もなく、「すぐくる」とだけ答え、子ども同士、何か納得したようにうなずきあう。




「 ―― マツキチは、おれがなにも言わなくっても、《なにかあるな》ってわかってるんだ」

 寺へいそぐ道筋で、センネンがきくともなくこたえた。



 子ども同士で、力を合わせてのりこえねばならない『なにか』が、おこる、と。



「・・・そうみたいだな。マツキチも、センネンさんとおんなじくらい、相手のことをおもいやれる子だ」



 センネンがいきおいよく振り返った。

「 あいつは、おれなんかより、ずっとつらいのをのりこえてきてるよ。 ・・・おれなんて、母上父上にいつまでも甘えてて・・・。いつも師匠におこられてる」

 それが恥ずかしいのか、耳が赤くなる。


「そうかい。親御さんがいるならそりゃ、子が甘えるのは、孝行だ」


「もう、甘えるとしじゃねえだろうって師匠にいわれるよ」


「そりゃ、きびしい」

 なりは大きくとも、まだ十二だ。


 センネンはヒコイチの顔をみてなにかいいかけたが、くちをとじて足を速めた。また、この青空が変わって雨がふるのかもしれないと思ったヒコイチも、おくれないようについてゆく。




 やっとついた寺の石段。両脇の青竹が風もないのにさわさわとゆれた。


 わきめもふらずにかけのぼったセンネンが、息もきらすことなく「お師匠さま!」と呼ぶと、ひどくのんびりとした返事が本堂の方からする。


「 おう、黒猫はみつかったかい?」


 半分ほど閉まっていた本堂の扉をあけて現れた無精ひげの坊主は、会った時とはちがう深い藍色のきれいな着物を着ていて、懐手で二人をむかえた。



「お師匠!お願いがございます!」

 センネンがいきなり地面に手をつき、ジョウカイをみあげた。

「カワキタ屋さんにヒコイチさんがとどまって、黒猫をさがすことにしたいのです。師匠とヒコイチさんの約束がどうなのかは、知りませんが、どうか、しばらく猫をさがす猶予をいただきたくぞんじます」


 平伏するセンネンにあっけにとられていたヒコイチが、高い位置から弟子をにらむジョウカイに、あわてて説明する。


「 おれが、 ―― センネンさんの様子がおかしいんで、しめあげて吐かせたんでさあ。そしたらどうも、カワキタ屋さんによくねえことがおこるらしい」



「 センネン、口がかるいな。 まあ、この人が相手じゃ、しかたもねえか」

 ふっと笑った師匠は、今度はヒコイチをにらむ。

「 ―― あんた、黒猫のほうはもういいってことかい?」



「とんでもねえ。 ・・・しっかり、最後まで終わらせるさ」



「さいごまで、だな?」

 うなずいた男は声をあらためると、「センネン」とよびかけた。

「 ―― おまえが帰って来る前に『おさめ』は終えた。ただな、まだすこしうるさくってな」と本堂の扉のほうに顔をむける。





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