さいごまで
十六、
ヒコイチは戸口で見送る三人に、「急いで戻ってくるからよ」と約束した。
マツキチがセンネンに、「おまえも法事が終わったらこられるのか?」と、としかさのように聞いている。 センネンは怒った様子もなく、「すぐくる」とだけ答え、子ども同士、何か納得したようにうなずきあう。
「 ―― マツキチは、おれがなにも言わなくっても、《なにかあるな》ってわかってるんだ」
寺へいそぐ道筋で、センネンがきくともなくこたえた。
子ども同士で、力を合わせてのりこえねばならない『なにか』が、おこる、と。
「・・・そうみたいだな。マツキチも、センネンさんとおんなじくらい、相手のことをおもいやれる子だ」
センネンがいきおいよく振り返った。
「 あいつは、おれなんかより、ずっとつらいのをのりこえてきてるよ。 ・・・おれなんて、母上父上にいつまでも甘えてて・・・。いつも師匠におこられてる」
それが恥ずかしいのか、耳が赤くなる。
「そうかい。親御さんがいるならそりゃ、子が甘えるのは、孝行だ」
「もう、甘えるとしじゃねえだろうって師匠にいわれるよ」
「そりゃ、きびしい」
なりは大きくとも、まだ十二だ。
センネンはヒコイチの顔をみてなにかいいかけたが、くちをとじて足を速めた。また、この青空が変わって雨がふるのかもしれないと思ったヒコイチも、おくれないようについてゆく。
やっとついた寺の石段。両脇の青竹が風もないのにさわさわとゆれた。
わきめもふらずにかけのぼったセンネンが、息もきらすことなく「お師匠さま!」と呼ぶと、ひどくのんびりとした返事が本堂の方からする。
「 おう、黒猫はみつかったかい?」
半分ほど閉まっていた本堂の扉をあけて現れた無精ひげの坊主は、会った時とはちがう深い藍色のきれいな着物を着ていて、懐手で二人をむかえた。
「お師匠!お願いがございます!」
センネンがいきなり地面に手をつき、ジョウカイをみあげた。
「カワキタ屋さんにヒコイチさんがとどまって、黒猫をさがすことにしたいのです。師匠とヒコイチさんの約束がどうなのかは、知りませんが、どうか、しばらく猫をさがす猶予をいただきたくぞんじます」
平伏するセンネンにあっけにとられていたヒコイチが、高い位置から弟子をにらむジョウカイに、あわてて説明する。
「 おれが、 ―― センネンさんの様子がおかしいんで、しめあげて吐かせたんでさあ。そしたらどうも、カワキタ屋さんによくねえことがおこるらしい」
「 センネン、口がかるいな。 まあ、この人が相手じゃ、しかたもねえか」
ふっと笑った師匠は、今度はヒコイチをにらむ。
「 ―― あんた、黒猫のほうはもういいってことかい?」
「とんでもねえ。 ・・・しっかり、最後まで終わらせるさ」
「さいごまで、だな?」
うなずいた男は声をあらためると、「センネン」とよびかけた。
「 ―― おまえが帰って来る前に『おさめ』は終えた。ただな、まだすこしうるさくってな」と本堂の扉のほうに顔をむける。




