あしたのはなし
おトヨの声にも耳を貸さない様子に、ヨシスケが二人を呼び寄せる。
「おまえらは、なんでそう口喧嘩ばかりするんだよ?少しはお互いの言葉をうけとってだな、」
「だってセンネンが、」「だから、明日はだめだって」
横に並んだこども二人の声が重なったところで、台所から顔をだしたおトヨが代わりにはなしだす。
「明日、マツキチもジョウカイ様に話があるからお寺に行きたいって言うのよ。でもセンネンが、明日は大事な法事があるからマツキチに来てほしくないって」
「そりゃあマツ、お寺の邪魔しちゃいけねえぞ」
兄のいいつけに、弟はひるむことなく言い返す。
「だってよ、兄ちゃんたちの祝言を、ジョウカイに頼まねえといけねえだろう?きっと二人はそんなのいらねえって言うだろうけど、おれが嫌だ」
ヨシスケもトヨも赤い顔で何か言い返そうとして、言い返せない。
センネンが楽しそうに「おれが伝えておく」とうけあったが、《身内》としておれが頼みたかったのに、とマツキチがにらむ。
「 なあ、マツキチ。それならべつに、頼みてえことがあんだけどよ」
照れているのをごまかすようにヨシスケが顎をあげた。
「 ほら、タキチじいさんとこから明日、しあがる焼き物を取ってきてほしいんだ。ほんとうは今日受け取れるはずだったんだが、じいさんがそれだけ火入れにこだわって、一日ずれちまったんだ。そのかわり、いままでにない上出来なもんになるだろうってよ」
「またかよ」
「だけどな、じいさんが自分の焼き物を頼むのは、おれたちしかいないってのはわかってるな?あの焼き物はじいさんの子どもみたいなもんなんだ。おれがいけねえなら、おまえがいくしかねえだろう?」
「うん、・・・まあな」
「おれは明日、 ―― おトヨと墓参りに行ってくる。親父とお袋に、おトヨと夫婦になるってな。マツキチは、《身内》として、タキチさんに、おれたちのことをしっかり伝えておいてくれ」
「お、おう!わかった。ご祝儀はずんでくれるようにしっかり伝えるさ」
「これ!」
調子にのったマツキチを、赤い顔のトヨが叱る。
幸せなにぎわいにヒコイチも頬をゆるめ酒に口をつけたが、目の端にはいったセンネンの表情に、酒の味が一気に変わる。
《先読み》ができるというジョウカイに、その《法力》でもって、事が起こりそうな日にちをどうにか予見できぬものかと、明日、詰め寄ってみようと改めて思う。
ヨシスケに水晶をわたしたのは、気休めにすぎないだろうが、ジョウカイの力がすこしでもこの幸せを守ってくれるのではないかと期待したからだ。
その夜、客部屋にひきあげたあと、センネンに手紙のことを伝えると、「『返せ』ってのは、いったいなんだよ?厄介払いするみたいにして旦那さんのところに連れてきたのはむこうだろう?」と声を大きくし、ヒコイチに口をふさがれた。
「センネンさんがそういうのはわかるが、ヨシスケさんも言ってたが、むこうの親父さんの気持ちになれば、子どもを手元にもどしたいってのもしかたねえ」
「なんだよ。ヨシ兄もヒコイチさんも、あんな薄情者の味方すんのかよ?自分の勝手で子どもをいらねえって言ったり、戻せって言うなんて、おかしいだろう?そんなやつのいうことなんか、きかねえよ。 甘いんだよ。ふたりとも」
口にあったヒコイチの手をはらう。
その、心底怒った様子は歳にふさわしくまっすぐなものだ。
「 たしかにそうかもなあ。 ―― 安心しな。ヨシスケさんはもうマツキチを返すつもりはねえさ」
「まあ、それならいいや。 マツキチだって、ずっとここにいたいに決まってる」
「ああ。そうだな」
「よし。明日は、おトヨさんは昼間ヨシ兄といっしょだし、マツキチは隣村だから、おれたちが夜までにいそいで寺からここに戻ってくれば、平気だな」
《おれたちが》いれば平気だ、というその様子に、ヒコイチはすこし気になっていることをきいた。
「『平気』というか・・・。 ここには何か役にたちそうなもんはあるのかい?なにか槍みてえなもんとか。まさか、強盗相手に素手でやり合おうっておもってるんじゃねえよなあ?」
冗談をいうつもりで笑ってみせれば、センネンはすました顔で「薪割りの鉈がある」と言った。
「・・・そりゃ、すこし、扱いにくくねえかい?」
「じゃあ、明日、師匠に刀を借りよう」
「 ―― ってことは・・。ジョウカイさまは、元はオサムライかい?」
はっとしたようにヒコイチをみたセンネンは、「おれはねむい」といきなり宣言して布団をかぶった。
「 刀を借りてもおれアつかえやしねえや。 おれは鉈にしとくからよ」
ヒコイチの言葉に布団の中からの返事はなにもなかった。
目をとめてくださったかた、おつきあいくださっているかた、ありがとうございます。。。
が、
これよりさき、残虐な表現の続くものとなりますので、ご注意を。。。。。




