先読み
十三、
はやめの飯も食べおえて満足したのか、マツキチは背筋をのばし、カワキタ屋として、お得意先をまわる御用聞きと、届けものをしてくる、と背負った籠の中をあらためはじめた。
「たいした数じゃあねえから、おれひとりでまわる。猫のほうはたのんだぜ」
センネンに落ち合う場所をつげ、さっさと行ってしまった。
なんともいえない顔をしていた小坊主は、「ガキのくせに生意気なんだよ」と困ったようにわらい、懐から《絵図》をとりだし、この辺りからまわっていこうとヒコイチの顔をみた。
「 ・・・・なに、わらってんだよ」
「いや、なに。おまえたちをみてると、おもしろくて。 マツキチが九つで、センネンさんはいくつなんだい?」
「・・・十二」
「へっ!?・・・いや、十六くらいかと・・・。やっぱりお坊様になる人ってのは、そういうもんなんだなあ」
「なにがだよ」
「他人のことを気にかけられるってことよ。 ・・・センネンさん、あんた、―― カワキタ屋さんに《なにかある》と心配なさってるね?」
「・・・・・」
目のあった子どもは、やはり十二のこどもにはみえなかった。
ヨシスケとトヨのことを泣きながら喜んだときには年相応にみえたのに。
「 ・・・歩きながら、話すよ。ヒコイチさんは、勘がいいし、人柄も信用していいみたいだから」
「そりゃ、どうも」
家と家の間や、転がった桶や板の隙間をのぞきこみ、ときおり人に黒猫をみなかったかとききながら歩きまわるあいだ、センネンがゆっくりと口をひらいた。
「 ・・・うちのお師匠、・・・かなりの《法力》があるって、あんたも知ってるみたいだけどさ。《先読み》ができるんだ」
「『さきよみ』?」
「ああ。この先おこることを、夢でみるんだ。 ―― いやなことだけ」
いやなこと
「 そりゃ・・・。 じゃあ、お師匠さんが、カワキタ屋さんに、《なにかおこる》のをみたのか? ―― おしこみの強盗かい?」
ヒコイチの言葉に、かがんで塀の隙間をのぞいていたセンネンの顔が驚いたようにあがる。
「おれ、 ―― そこまで話したっけ?」
「いや、なんだか戸締りのことをやけに心配してるみたいだったからよ」
立ち上がったセンネンがここには猫はいない、と《絵図》をみなおしながら、くちもとをひきしめた。
「 ・・・たぶん、そうじゃないかとおもってる。 だって、師匠が《先読み》でみたのは、『カワキタ屋が血まみれになる』っていうことだ。この辺に山賊はいないし、カワキタ屋はだれかに恨みをかうような商売はしてないからな」と、眉をしかめ、「 だから、 ―― どうにかして、ふせぐ」とにらむような眼をヒコイチへむけてきた。
「 ・・・そのこと、ヨシスケさんたちには?」
その『ふせぐ』という決意を背負い込んだ、まだ幼い顔にきく。
「言わない。《先読み》のことはおれしかしらないし、ほかの誰にも言ったらいけないことなんだけど、あんたは信用できるからさ。 ・・・師匠は、それがいつ起こるのかまではわからないっていうんだ。ただ、ちかく起こるのだけは、間違いないって。 ・・・おれは、――今度ばかりは、師匠のそれが、はずれてくれればいいと思ってる」
「いままで、《はずれたことがない》ってことだな?」
センネンは返事をせず、目をふせた。




