いつまでたっても
※これより先、さらにいろいろよろしくない表現など多々でてまいりますので、ご注意を米
女一人になってしまうので、今日は店を閉めておいた方がいいとヨシスケとセンネンがいうのに、おトヨはわらって相手にせず、「うちを目指してくる行商の人もいるんだよ」とヒコイチをみて、「目指した宿が閉まってたら、背中の荷だって倍の重さになるでしょう?」と首をかたむけた。
ほんとうなら、おおきくうなずきたいところだったが、「 ―― まあでも、この辺は山犬もでるみてえだし、不用心なのはいけねえな」と、閉めておくことをすすめた。
まだなにかを言い返そうとしたトヨに、戸を閉めるのを決めさせたのは、マツキチの、「ねえちゃんは、きょうは宿を守るんじゃなくて、おれたちの帰りを待っててくれりゃいいんだ」という言葉だった。
「気をつけていけよ」
ヨシスケがマツキチの頭をぽんとなでて逆の道をのぼっていった。
背中を見送っていた弟は、「あ~あ。姉ちゃんと兄ちゃんが夫婦になって、そんで早く赤ん坊が生まれねえと、いつまでたってもおれが赤ん坊扱いだぜ」と顔を赤くして、背にある籠をゆすり、ふてくされたように歩き出す。
センネンとヒコイチは目を合わせ笑ってしまった。
どうやら兄弟でのはなしは無事に済んでいたらしい。
きのうよりも量が増えた谷川の水を見下ろし、寺に続くのとは違う安心できる山道をたどって峠をこえて山をおり、広い街道にでてゆくと、人がゆきかう町についた。ヒコイチになじみのある街とは違い、旅人や行商人がめだつ、山間のにぎやかな町だった。
「ここで買い付けて、海の方に売りにゆく行商人がうちに泊まってくんだ。 でも、おれと姉ちゃんだけのときには宿屋はやってなかった。女と子どもだけだからあぶねえし、あしもとみられるしな。 そしたら、死んだおっとうに世話になったからって、ジョウカイがいろいろ出入りしはじめて、じぶんとこでつくった薬草を売るようにって持ち込んできて、それを買いにいろんなとこの医者がきはじめたころに、ヨシ兄が帰ってきた。 ・・・前に帰ってきたときはたくさん土産をもって帰って来たのに、なんにも持ってなくて、そんで姉ちゃんのこと怒鳴って、ジョウカイにもつかみかかってた。 ・・・あんなにおこってる兄ちゃん見たのははじめてで、・・・こわかった・・・ 」
ついてすぐに腹が減ったと言い出したマツキチが、町のはずれにある神社で飯を食おうと言って、三人は小山の上にたてられた稲荷神社の階段にこしかけていた。
むこうに伸びる瓦をぼんやり眺めながら、マツキチが語りだしたのだ。
「 ・・・おれ、六つになるまえに、カワキタ屋の旦那・・・おっとうとおっかあにひきとられたんだ。姉ちゃんも同じだってきいたけど、・・親に、いらねえっていわれて。姉ちゃんは、銭で買われるとこだったっていうけど、おれはさ、買ってくれる人もいなくって、おっとうがしかたなく引き取ってくれたんだ」
「おい、マツキチ、それはちがうって何度も言われてるだろ」
怒ったセンネンの声に、笑ったような顔をしたマツキチは、「わかってるよ。おっとうもおっかあも、しかたなくじゃない、っていうんだろ? けど、最初はずっとそう思ってた」表情を消して、手にした握り飯にかじりつく。




