念押し
ヒコイチたちが上の階にひきあげたあと、兄妹三人でどんなことが話され、どうなったのかはわからないが、つぎの日の朝飯のときの様子は、とくに変わりはなかった。
「マツキチ、おれはいっしょにまちへ行けないが、しっかり黒猫をさがすんだぞ」
念押しするようにヨシスケがマツキチに言う。
「わかってるって。お駄賃はヒコイチさんからもらえばいいんだろ?」
ヒコイチのほうをむいて笑う弟を、「これ、」と、おトヨがしかる。
「お得意さまもまわりながら、その黒猫もさがすんだ」
どちらも気を抜くな、というヨシスケに、今日は忙しくなりそうだぜ、と箸を持った子どもが大人のようにぼやく。
「 ところでその黒猫って、なにか印があるのか?ただの真っ黒な猫なら、何匹かみつかるかもしれないけど、それのどれが探してる猫かなんて、ヒコイチさん、わかるのかい?」
センネンが茶碗をかきこみながらきく。
ヒコイチは飲みかけていた味噌汁をふきだしそうになった。
「 う、 そりゃ、ま、もちろん」
きっと、こちらをばかにしたような態度をとった黒猫が《乾物屋》だ。
「あんたたちはとにかく黒猫をさがせばいいのよ」
トヨがお茶をいれた湯飲みをヒコイチに渡し、子どもふたりにいいきかせるが、ヒコイチはなんだか不安になってきた。
たしかにいわれてみれば、何匹か同じような黒猫が集まり、おなじようにこちらをばかにしたような態度をとられたら、ヒコイチにみわけがつくかどうかはあやしい。
なにしろ乾物屋は、いま、しゃべらなくなっている。
いや、まてよ・・・
そのまえに、ほんとうに《この場所》で、《乾物屋》であるあの《黒猫》は、みつかるのか?
なにしろ『キフショウ』も『トメヤ』もここにはないのだ。
そのまえに、どうやらここは、ヒコイチが子どものころをすごした山に近い場所らしい。
あの寺のせいか・・・
あそこが、白ヘビがからむような寺なのだとしたら、たしかに何がおこってもふしぎではないが、あのジョウカイという坊主に自分で片をつけろといわれたときに、なぜだか、何の疑問ももたずに、乾物屋は《ここ》にいると思ってしまった。そしてそれは間違ってはいないという感覚が、なぜかあるのだ。
おトヨが男四人それぞれに握り飯を用意してくれた。
ヨシスケは、先の山を越えた隣の村まで、頼んでおいた『うつわ』をとりにゆくという。
「名人とよばれる窯焼きのじいさんが焼く茶器や花器が、なんだかずっとむこうのほうじゃ売れるらしくて、高値の注文をいただくんですよ」
「じゃあ、ヨシ兄は、今日戻らないのか?」
センネンがあせったようにきく。
「いや。そんなにたいした量じゃねえし、はやくもどってこられるさ」
ならよかった、と小さな声で息をつく小坊主が、ヒコイチの視線に気づいて「転んで大事な売り物を割ったりしないようにな」とからかうようにわらってみせた。




