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大滝の石と黒猫のはなし  作者: ぽすしち
十二

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36/71

念押し



 ヒコイチたちが上の階にひきあげたあと、兄妹三人でどんなことが話され、どうなったのかはわからないが、つぎの日の朝飯のときの様子は、とくに変わりはなかった。



「マツキチ、おれはいっしょにまちへ行けないが、しっかり黒猫をさがすんだぞ」

 念押しするようにヨシスケがマツキチに言う。


「わかってるって。お駄賃はヒコイチさんからもらえばいいんだろ?」


 ヒコイチのほうをむいて笑う弟を、「これ、」と、おトヨがしかる。


「お得意さまもまわりながら、その黒猫もさがすんだ」

 どちらも気を抜くな、というヨシスケに、今日は忙しくなりそうだぜ、と箸を持った子どもが大人のようにぼやく。


「 ところでその黒猫って、なにか印があるのか?ただの真っ黒な猫なら、何匹かみつかるかもしれないけど、それのどれが探してる猫かなんて、ヒコイチさん、わかるのかい?」

 センネンが茶碗をかきこみながらきく。


 ヒコイチは飲みかけていた味噌汁をふきだしそうになった。

「 う、 そりゃ、ま、もちろん」


 きっと、こちらをばかにしたような態度をとった黒猫が《乾物屋》だ。



「あんたたちはとにかく黒猫をさがせばいいのよ」


 トヨがお茶をいれた湯飲みをヒコイチに渡し、子どもふたりにいいきかせるが、ヒコイチはなんだか不安になってきた。


 たしかにいわれてみれば、何匹か同じような黒猫が集まり、おなじようにこちらをばかにしたような態度をとられたら、ヒコイチにみわけがつくかどうかはあやしい。



 なにしろ乾物屋は、いま、しゃべらなくなっている。



  いや、まてよ・・・


 そのまえに、ほんとうに《この場所》で、《乾物屋》であるあの《黒猫》は、みつかるのか?



 なにしろ『キフショウ』も『トメヤ』もここにはないのだ。

 そのまえに、どうやらここは、ヒコイチが子どものころをすごした山に近い場所らしい。



  あの寺のせいか・・・



 あそこが、白ヘビがからむような寺なのだとしたら、たしかに何がおこってもふしぎではないが、あのジョウカイという坊主に自分で片をつけろといわれたときに、なぜだか、何の疑問ももたずに、乾物屋は《ここ》にいると思ってしまった。そしてそれは間違ってはいないという感覚が、なぜかあるのだ。





 おトヨが男四人それぞれに握り飯を用意してくれた。

 ヨシスケは、先の山を越えた隣の村まで、頼んでおいた『うつわ』をとりにゆくという。

「名人とよばれる窯焼きのじいさんが焼く茶器や花器が、なんだかずっとむこうのほうじゃ売れるらしくて、高値の注文をいただくんですよ」


「じゃあ、ヨシ兄は、今日戻らないのか?」

 センネンがあせったようにきく。


「いや。そんなにたいした量じゃねえし、はやくもどってこられるさ」


 ならよかった、と小さな声で息をつく小坊主が、ヒコイチの視線に気づいて「転んで大事な売り物を割ったりしないようにな」とからかうようにわらってみせた。





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