マツキチの絵図
「 ジョウカイさまからお手紙で、ヒコイチさんのさがしもののお手伝いをするよういいつかっておりますので、なんなりとお申し付けください」
驚いてセンネンをみれば、小坊主はなにか考え事をしているような顔でぼうっと囲炉裏の火をみている。背負っていた箱がいつのまにかなくなっているのだから、きっとその荷物にその『手紙』とやらがついていたのだろう。
ジョウカイの挑むような声を思い出す。
『 あんたが片付けるといいだろう 』
「 ―― そりゃあ・・心強い。 手びろいご商売されてるからには、いろんなことが耳にはいるはずだ。おれがさがしてるのは、 その、えーっと、・・・まずは、『キフショウ』って名の、乾物屋かなんかの店を、ごぞんじで?」
「『キフショウ』?」と何度か口のなかで転がしたヨシスケは、奥のおトヨに《マツキチの絵図》をもってきてくれと叫んだ。
それは、ヨシスケが商売をしている広いまちの絵図で、大きな通りの店の並びから細い路地にある長屋まで、誰が何人で住んでいるかまでかきこまれていた。
「 ―― マツキチが思いついてつくったもんで。一軒一軒ききまわってかきこんだものです。そんで、このまちにあるお店の名前はこっちの後ろに、商売ごとにわかれてまとまってある。 が、・・・キフショウさんって乾物屋はねえし、ほかの商売でも、なさそうですよ」
「 そうですかい。 じゃあ、『トメヤ』っていう呉服屋は?」
「トメヤさん?うーん。それもない」
「じゃあ、おれの覚え違いかな。すまねえ。 ―― じゃあ、それとはべつに、このへんで、黒い猫をみかけたことはねえですかい?」
「黒猫?ちょっとまってください。おい!マツキチ!」
呼ばれて、どうやら台所でおトヨにあぶらをしぼられていたらしい子どもは、ふてくされたような顔でヨシスケの横にすわった。
「 ヒコイチさんは、黒猫をさがしてるんだ。おまえ、どこかでみなかったか?」
子どもににらまれたヒコイチが、機嫌をとるようにわらって見せ、「ひとなつっこくて、頭がいい猫だ。とくに、女に甘えんのがうめえ」というと、こどもが「あんたの飼い猫なのかい?」と心配そうにききかえす。
飼い猫?
そういえなくもないが、あれはヒコイチが飼っているわけではない。
「 おれが飼ってるんじゃねえが、おれの知り合いのじい、さん・・・が、・・・かわいがってる猫なんだ。人からくいもんをもらうのに慣れてるんで、いるとしたら、まちのどこかにいるはずなんだがな」
乾物屋がネズミをとって食うとは思えない。
「 ―― マツキチ、その猫は明日おれといっしょにさがそう」
いままでぼうっと火をながめ黙っていたセンネンがいきなり言って立ち上がり、ヒコイチに許可を得るように顔をむけた。
「ああ、それなら、ふたりともたのむ」
ふたりいっしょなら見つけられるかもしれない。
深くうなずきかえした小坊主が、ヨシスケに真面目な顔をむけた。
「ヨシ兄、家の木戸はちゃんと閉まってるかい?」
「ああ。閉まってる。だが、こんな田舎の万屋におしこみで入ったとしても、大したものなんかねえし、金だってねえさ」
着物の袖をふってみせ笑うヨシスケに、センネンも笑ってみせたが、どこかぎこちない。その顔をヒコイチへむけた。
「 おれとマツキチは、奥で明日の商売の支度をしてくる。ヒコイチさんはおトヨさんのうまい飯でも食って、ヨシ兄に商売のイロハでも教えてやってくれ」
「なんだと。この半人前坊主が」
わざと声をあらげたヨシスケは、子ども二人が笑い声をあげながら奥にひっこむのを見送り、照れたような顔をむけた。
「 ―― まだまだ、おれだってガキみたいなもんで。いっつもあいつらにからかわれてるんですよ」
いいながら奥のおトヨに酒の用意をするよういいつけた。
「いや、うらやましい。 おれはきょうだいがいないんで、こういうケンカ、したくてもできねえなあ」
徳利と猪口を二つ用意してでてきたおトヨが、おひとつどうそ、と猪口を渡し、「わたしも、九つまでは、兄弟はいませんでしたよ」と酒を注いだ。




