あの一番高い山
受け取った笠をかぶり、かんじんなことをきく。
「どこにいくんだい?」
ジョウカイのくちぶりでは、《乾物屋》をさがしだせる場所のようだった。
「カワキタ屋さんだよ」
センネンが聞いたこともない店の名をだす。
だが、ヒコイチも街の大小すべての店を知っているわけではない。
さあいくぞ、とヒコイチをおいてゆくような勢いでとびだして、軽い足取りで石段をおりてゆく小坊主のあとを追おうとして、その景色に足がとまった。
のぼるときに枯れて倒れていた両側の竹が、また、青くしっかりと立っている。
それどころか―― 。
なんだよ、こりゃあ・・・
石段から見下ろすむこう一面、白いススキが風にゆれている。
団子を食べた店どころか、ひらけた道などどこにもない。それどころか、石垣ぞいにのびていた道に並んでいた店も家もすべてなくなり、ただ、枯れはじめたススキのしげる野原しかない。
「・・・たぬきのしわざか?」
思わず口走ったヒコイチをおいて、さっさと石段をおりきったセンネンが、右手の方に歩き出している。あわてておいかけ、ゆくてをふさぐようにしげるススキを、かきわけてきく、
「な、なあ、センネンさん、ここにあった店は」
「店?そんなものこのあたりにはないさ。もっと南の道までいかないと」
かなりな速さで足を運ぶ子どもは、振り返りもせずに言う。
「『南の道』?」
ヒコイチは歩きながらもぐるりと体をまわしてみた。
やはり、どこをみても、ススキしかない。
そのススキ野原の中に埋まるように細くある道を、縦になって二人は進む。
「その道なら宿場につながってるし、それをずっと西にいけば、そのうち大きな集落もあるけど、店なら宿場のほうがあるな。土産もみんなそこで買うし」
前をゆくセンネンが足をゆるめずに言う。
「 ちょ、ちょっとまてくれ。 『宿場』だあ?そんなのもっと山の方だろう?ここじゃあ海の方が近いってのに」
「 『うみ』?何いってんだ? 海なんて、ここからあの山をこえないといけないんだぞ。近くなんてないさ」
『あの山』とさされた指の先には、ここしばらくみることもなかった高い峰が連なっていた。
「 ここは、・・・ 」
ヒコイチがいつも商いをして暮らしている土地ではない。
しかも――。
「 あの、一番高いのが『つるぎ山』さ。 聞いたことないかい?」
センネンの示す、高いあの山のことを、ヒコイチは知っている。
「・・・ある」 『きいたこと』はある。
こどものころ、嫌になるほど。
「 あの『つるぎ山』にはテングが住んでるから、人ははいっちゃいけないんだ」
「ああ。 ・・・そうだな 」
ヒコイチの返事に初めてセンネンが笑った顔をみせた。
「へえ。あんたはテングなんて笑い飛ばすかと思ったのに」
「 ―― つるぎ山のテングはこえェ。って、ガキの頃、さんざん爺さんにおどかされたからな」
「ああ。じゃあ、あんた、こっちのほうの生まれか」
「生まれはどこか、わからねえが、拾ってくれた爺さんと、あの山のみえるところで暮らしてた」
「・・・そうか。じゃあ、 ―― わかったぞ。それで、師匠と昔からのしりあいなんだな?」
『知り合い』? いや。あんな男、記憶にはない。 だが・・・。
「 ・・・そうかも、しれねえな」
返事をしながら首の裏をなでた。
ススキをゆらしてわたる風が、ひんやりと冷たかった。




