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大滝の石と黒猫のはなし  作者: ぽすしち
十

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29/71

あの一番高い山



 受け取った笠をかぶり、かんじんなことをきく。

 「どこにいくんだい?」


 ジョウカイのくちぶりでは、《乾物屋》をさがしだせる場所のようだった。


 「カワキタ屋さんだよ」


 センネンが聞いたこともない店の名をだす。

 だが、ヒコイチも街の大小すべての店を知っているわけではない。

 


 さあいくぞ、とヒコイチをおいてゆくような勢いでとびだして、軽い足取りで石段をおりてゆく小坊主のあとを追おうとして、その景色に足がとまった。


 のぼるときに枯れて倒れていた両側の竹が、また、青くしっかりと立っている。

 


 それどころか―― 。

 

 

   なんだよ、こりゃあ・・・



    石段から見下ろすむこう一面、白いススキが風にゆれている。




 団子を食べた店どころか、ひらけた道などどこにもない。それどころか、石垣ぞいにのびていた道に並んでいた店も家もすべてなくなり、ただ、枯れはじめたススキのしげる野原しかない。



「・・・たぬきのしわざか?」


 思わず口走ったヒコイチをおいて、さっさと石段をおりきったセンネンが、右手の方に歩き出している。あわてておいかけ、ゆくてをふさぐようにしげるススキを、かきわけてきく、


「な、なあ、センネンさん、ここにあった店は」


「店?そんなものこのあたりにはないさ。もっと南の道までいかないと」

 かなりな速さで足を運ぶ子どもは、振り返りもせずに言う。


「『南の道』?」

 ヒコイチは歩きながらもぐるりと体をまわしてみた。


  やはり、どこをみても、ススキしかない。


 そのススキ野原の中に埋まるように細くある道を、縦になって二人は進む。


「その道なら宿場(しゅくば)につながってるし、それをずっと西にいけば、そのうち大きな集落もあるけど、店なら宿場のほうがあるな。土産もみんなそこで買うし」

 前をゆくセンネンが足をゆるめずに言う。



「 ちょ、ちょっとまてくれ。 『宿場』だあ?そんなのもっと山の方だろう?ここじゃあ海の方が近いってのに」



「 『うみ』?何いってんだ? 海なんて、ここからあの山をこえないといけないんだぞ。近くなんてないさ」



 『あの山』とさされた指の先には、ここしばらくみることもなかった高い峰が連なっていた。



「 ここは、・・・ 」

 ヒコイチがいつも商いをして暮らしている土地ではない。


 しかも――。




「 あの、一番高いのが『つるぎ山』さ。 聞いたことないかい?」


 センネンの示す、高いあの山のことを、ヒコイチは知っている。



「・・・ある」 『きいたこと』はある。


   こどものころ、嫌になるほど。




「 あの『つるぎ山』にはテングが住んでるから、人ははいっちゃいけないんだ」



「ああ。 ・・・そうだな 」



 ヒコイチの返事に初めてセンネンが笑った顔をみせた。


「へえ。あんたはテングなんて笑い飛ばすかと思ったのに」


「 ―― つるぎ山のテングはこえェ。って、ガキの頃、さんざん爺さんにおどかされたからな」


「ああ。じゃあ、あんた、こっちのほうの生まれか」


「生まれはどこか、わからねえが、拾ってくれた爺さんと、あの山のみえるところで暮らしてた」


「・・・そうか。じゃあ、 ―― わかったぞ。それで、師匠と昔からのしりあいなんだな?」



 『知り合い』? いや。あんな男、記憶にはない。 だが・・・。



「 ・・・そうかも、しれねえな」

 返事をしながら首の裏をなでた。





   ススキをゆらしてわたる風が、ひんやりと冷たかった。













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