あっちとこっち
《乾物屋》が今日もトメヤにいりゃあいいんだが。
店にいないとなったら、探すのに手間がかかると考えながら、センネンがいっていたことを思い出す。
「 ―― あのお師匠様のところには、狸も狐もくるのかい?」
「ああ、ときどき、暇つぶしにな」
こたえたセンネンは、風呂敷に包まれた箱を背中にはすにかけて負い、布端を胸の前でしっかりと結ぶ。
「 するってえと、このお寺さんには、ふだんから、『いろんなもの』がくるわけか」
たとえば、《ヘビの坊主》とかも。
「そりゃそうさ。 ここは、あっちとこっちをつなぐ寺なんだから」
センネンは笠をかぶり、そのひもも、しっかりと結んだ。
『あっちとこっち』か。
それは、『あの世とこの世』ということか?それをつなぐ寺?
首をかたむけ腕をくんだヒコイチに、センネンが笠を差し出す。
「途中で雨が降るかもしれないから、かぶりな」
見上げた空は薄く雲のかかる青だ。センネンのその年下の者に命じるようなもの言いも気にならないヒコイチは笠をうけとった。
これからセンネンのあとについて、むかわなければならないところがある。
ジョウカイに《乾物屋》を連れてくるよう言われたヒコイチがすぐにも寺を出ようとすると、なにもそういそぐな、ととめられた。
「 あんたが思っているより、『さがしだす』っていうのは手間がかかる仕事だ。 そうさな。センネンもつかいでゆくところがある。いっしょに出るといい」
このあたりの山は不慣れだろう、ときかれ、「山?」とききかえす。
このあたりから『山』にいくならば、かなり遠い。
「 ―― それに、近頃このあたりで山犬をみたという話しもあってな」
ジョウカイがつけたしたそれに、ヒコイチはおもわずわらってしまった。
「山犬だア?いやいや、そりゃア野良犬のまちがいでしょうよ」
こんなところに山犬などいるわけもない。
ヒコイチの言葉にジョウカイは口端をあげうなずいた。
「 そうかもしれぬな。 ともかくセンネンとゆくといい。あそこならさがしやすかろう。センネン、おまえは明後日には寺へもどれよ」
いいながら、茶筒がはいるほどの箱を小坊主にわたす。
いいつけられたセンネンはヒコイチのほうを口をとがらせ振り返り、なにかをいいかけ、口をとじた。
その文句の代わりに、二人きりになった時にでたのが、「おまえはなにものだ」という問いだったのだ。
《お師匠に気に入られた男》が、子どもは気に入らないのだ。
からだは大きいが、やはり子どもだと口には出さずにヒコイチは頬をゆるめた。




