なにもの
十、
草鞋に履き替えるセンネンが、こちらをみあげ、挑むようにきく。
「 ―― あんた、だれだ?」
「 ―― 『あんた』じゃなくって、ヒコイチだよ」
「名をきいてるんじゃなくて、あんた、何者なんだってきいてるんだ」
「いや、だから・・・、 困ったもんだ・・・」
小坊主と合った目をついとそらし、首をなでる。
あけはなした庵の中を風がわたり、ひやりとした。心地よいというよりは、肌寒い。
『何者』かときかれても、流しの商いをしてる男だとしかこたえられず、先ほどから同じようなやりとりをくりかえしている。
だが、センネンはそれに納得していない。
「いきなり入ってきたうえに、師匠にここにいていいと言われるなんて、あんた、ただものじゃあないだろ?」
立ち上がった子どもの、その怒ったようなうらやむような口調に、つい笑ってしまった。
「 そうか、ってエことは、 ―― あのお坊様が『ただもの』じゃあねエってことだな?」
「あったりまえだ。おれの師匠は、そのへんの坊主とは違って、あの世もこの世もおなじようにわたってきた『つわもの』だぞ」
「ほう。なるほどなあ・・」
その『つわもの』が、猫になってこの世にとどまっている《乾物屋》に出会ったら、きっとすぐにも成仏させてしまうのではないかとこの寺に足をはこんでみたのだが、『つわもの』は楽しそうに、ヒコイチに《片をつけろ》と命じた。
そんなことを言われても困る。
自分は何も《法力》など持っておらず、猫になった死人の片など、とてもつけられないと訴えると、『つわもの』は、それならおれがその《乾物屋》をとっとと成仏させていいんだな?と、脅すようにきいてきた。
それはやはり、『嫌』だった。
なにより当のカンジュウロウの気持ちをきいていない。
とにかく、先に《乾物屋》に会ってみてほしい、というと、ジョウカイは笑ってうなずき、それではその『カンブツヤ』を、さがしだして、ここに連れてこい、と言った。




