片付け
「 あ、あの、おれは、ヒコイチっていう流しの商いをするモンなんですが、先日こちらに石をおさめたご縁で、―― すこしばかりききたいことがあってまいりました」
「 ほう。 『石』を?」
相手がいぶかるようにわらう気配があったので、思わずヒコイチはつけくわえた。
「なんでもその『石』ってのが、ふだんはどこだかの大滝にあるらしいんですが、ときたま行方知れずになるっていう『ありがてえ石』みたいでね。それをかついでまわって、よおやくここに、『おさめに』きたってしだいで」
「『かついで』? だが、おれはお会いした覚えはないが」
「へい。 そんときお会いしたご住職は、自分の正体は『蛇』だなんていうもんですから、こっちは腰をぬかして逃げだしやした」
見合ったあいてが、ぶっは、と勢いよく笑い出した。
「 へび!? そうか、そうか。するってえと・・、 まあいい。ともかくはなしをきこう。 ―― おれはジョウカイともうしてな。この寺をしばらく預かっておるものだ」
いきなりくだけた口調になりヒコイチの肩を力強くたたくと、庵をさした。
「おい、センネン、こりゃあイズミの白湯を用意しておけよ」
「師匠!?そのひと、いれるんですか?」
センネンとよばれた小坊主はまだ眉をよせてヒコイチをみていたが、師匠に片手を振り払われると、しかたなさそうに庵へと先にむかった。
大柄な坊主が頭をさげて入った戸口をヒコイチも続いて入る。たしかにこのまえ訪れた時と同じ庵だが、床板は黒く光っていないどころかまだ白く、新しい材木の匂いがするほどだった。
石がもどって、建てかえたってのか?
だが、熾火の残る囲炉裏そばに置かれていた鉄瓶は、あのときと同じように古びていた。
白磁の水差しからその鉄瓶に水をいれる小坊主は、なにかいいたそうにヒコイチを見て、つぎになにかききたそうに『師匠』を見てから、さがっていった。
「 さあ 」
ヒコイチのむかいにどっかりと腰を下ろした男に湯飲みを手渡され、鉄瓶から中身を注がれる。鼻を近づければ匂いはないが、口をつければやはり酒だった。
「 ふむ。 こりゃうまい」
同じように湯飲みに口をつけ、あぐらをかいたジョウカイは大きな体を小さくするように背をまるめ、おもしろそうにこちらを眺める。
「ヒコイチどの、あんたが会ったっていう住職の『ヘビ』、歳はきいたかね?」
「それが、四百にとどくほどだとか・・・」
「ああ、そうか・・・。 しかし、いい味だ。あの白蛇にはもったいねえ」
「しろへび?」
「そうさ。住職になるのは『白蛇』なんだが・・まあ、そりゃあいい。 『大滝の石』ならばたしかに勝手に行方をくらまして、そのつど迎えにゆくことになっておる。それを『おさめに』きたっていうのは、ご苦労なはなしだ」
そう言って笑うと、また鉄瓶から湯飲みについで一気に飲みくだした。
「 ―― で、あんた、ヘビの住職にまた会いに来たのか?」
湯呑を置いた男が、ためすようにわらう目をむけてくる。
「いや。・・・おれがこちらのお寺さんに来たのは、―― 」ここで息を継いで坊主と目を合わせた。
なるほど、元締めが言っていたように体が動かない。だが、こわいとも感じなかった。
「 ―― あんたに会いたかったからなんですよ」
すっと言葉がでると、体をしばっていた何かがとれた。
「ほお。このおれに?」
おもしろいものをみるような相手の顔の前に、あの水晶玉をつまんでだした。
「 ―― あんたが、チョウスケのとこの《旦那さん》のことを片付けたんなら、もしかして、《乾物屋》のことも片付けようとしてんじゃねえかと思ったんだ」
細かいことなど言わなくともすでに全てわかっているはずだ。
水晶の粒をこちらの指からとりあげたジョウカイはそれを透かし見てすぐに返し、「だとしたら、どうだというんだ?」と首をかたむけきいた。
「 その、『カンブツヤ』とかいうのを、もし、このおれが『片付け』ようとしているのだとして、それがあんたにどんな関係がある? あんたが困るのか?」
鉄瓶の中の残りをみるように蓋をあけてのぞき、のこりをじぶんの湯呑にあける。
「 そ、 ・・・それは・・・」
困るとはいいきれない。
相手の眼をみながらしばらく考えて、ようやく探し当てた言葉があった。
「・・・『困る』 って、わけじゃあねえんだが・・、『嫌』なんだ。おれが知らねえとこで、あの《乾物屋》が『片付いて』、この世からいなくなるってのが」
みあった相手の眼が、正解だというようにゆるみ、うなずくようにまた湯飲みに口をつけると、その味にかんしんするかのように言った。
「 こりゃいいや。 そうか、『嫌』か。
なら、 ―― あんたが『片付ける』といいだろう」




