キフショウ
八、
チョウスケの話しをきいて、なんだかおちつかなくなったヒコイチは、翌日『キフショウ』にゆき、坊主がこなかったかとたずねてみた。
「 これはヒコイチさん、また墓参りにいってくださったようで」
店前にいた小僧にきこうとしたのに、主人を呼ばれてしまったうえに、このまえきまぐれでカンジュウロウの墓に線香をたてたのを寺できいたらしく、頭をさげられてしまった。
「いや、その、ついでっていっちゃアなんですが、近くに用があったもんで」
「その『ついで』が毎月あるとは、うちの大旦那も喜んでおりましょう」
人が悪いようなわらいをうかべてうなずくいまの店主は、カンジュウロウが生きていた頃に番頭をしていた男で、まだカンジュウロウが元気なころから早々に店の跡取りとして、近所にも仲間内にも紹介されていた。
この番頭は妻も子どももいるが、カンジュロウには、だれもいなかった。
『 血のつながりでの縁がうすくってなあ。ああ、おまえさんもおなじか 』
初めて会ったときにそんな話になり、カンジュウロウはヒコイチをながめて息をつくようにわらった。
『 血のつながりがありゃいいってもんじゃあ、ねえよなあ 』
冷めたような馬鹿にしたようなその笑い方はそれっきりで、そこからつきあいがはじまると、あとはもう、がさついたひどい笑い声しかださなくなった。
カンジュウロウがいなくなってからこの店に顔を出すのはひさしぶりだった。
新しい店主は、たまにはこちらにも寄ってください、とくだけた様子で茶をすすめた。カンジュウロウといっしょで、この男にも気取ったところはない。こちらの問いにもかんぐることなく素直にうなずいた。
「 ―― ああ、いらっしゃいましたよ。大きなお坊様が」
「なにか、カン・・大旦那さんのこと、きかれましたかい?」
店の亡くなった旦那を呼び捨てにしそうになり、あわてていいなおす。
「旦那様のことを?いいえ。 ただ、白くて人懐こい猫をみたことはないかって、きかれましたな。白くはないですが、『人懐こく賢い黒い猫なら、いまトメヤさんで人気ですよ』と、おつたえしました」
「と、トメヤ!?」
カンジュウロウのことじゃねえか!と声をだしそうになる。




