坊主がふえる
なんだよヒコさん、とチョウスケはわらう。
「お坊様は、飯につかえる乾物がほしかったんだよ。魚じゃなけりゃいいじゃないか」
「で、どこを教えたんだ?」
「そりゃあ『キフショウ』だ。古くて大きい」
「そりゃあ、・・そうか」
カンジュウロウの乾物屋だ。
「 まあ、とにかくそんなわけで、お坊様が帰ってから目の覚めた旦那様にわけをはなして、薬をのませたら、 」
ああ、ああ、おれはなんとひどいことを・・・
旦那さまはそううめくように涙を流し、それこそ『つきもの』が落ちたように、翌日から職人をよんで、庭の植木を片付けはじめたという。
「 ―― 寺に、植木も埋めた骨もいっしょにもちこんで供養したんだけどな、あのお坊様の言うとおり、なんと庭木のほとんどが、中は炭みたいになってて、炊き上げてもらったら生木なのにすごく燃えて、おまけにひどいにおいだったんだ」
「そういやあ・・・、このまえどこだかの寺で火事騒ぎがあったな」
「そう、それだよ。お経をあげてもらって火をつけた植木が、すごいいきおいで火をあげたんで、誰かが火事だって騒いだんだな」
飛び火はないよ、とチョウスケは酒をのむ。
「 ―― 旦那さまはあれから毎日、朝晩奥様がたにお経をあげて、近々、出家なさるらしい」
「へ?坊主になりなさるのかい?」
また、『坊主』が増える。
「先も長くないから、あとは奥様がたに手をあわせて終わりたいとおっしゃるんだ」
「じゃあ、おめえ、仕事は・・」
「あと何度か行っておわりだ。でも、次の勤め先を旦那様がみつけてくださったんで、すぐに新しいお屋敷に行かなきゃならねえけど。ヒマがあると、おれがまた女におぼれるんじゃねえかって、心配してくれてな。 ―― おれはやっぱり、いい旦那さまにお仕えした」
大きくうなずく様子は何年か前まで、女にたかることでしかこの世を知らなかった男とはおもえない。
「よかったな、チョウスケ」
本心から口にすると、嬉しげにうなずいた男のかわりに外からミャオウ、とこたえが返った。
ぎくりとしたヒコイチの代わりに立ち上がったチョウスケが戸をあけると、白い猫が、するり、とはいる。
だきあげたチョウスケが、「でもよお」と自分の湯飲みに酒を足す。
「 ―― あのお坊様は自分のことを『エセ坊主』なんておっしゃったが、きっと名のあるお方にちがいねえと思うんだ。なにしろ、あんなすごい法力をもってるんだし、それによ、みたこともねえ長さの立派なお数珠は、ぜんぶがきれいな水晶だったさ」
『 そういかりなさんな。こんな水晶、めったにおがめねぇぞ 』
ヒコイチの呆けたような顔をながめ、わらうように白猫がミャアと鳴いた。




