はてさて どうか
『 ほお。ずいぶんと育ったようだが、そこまでだ 』
言った坊主が、杖をトンと土にさす。
とたんに、酒が満たされた地面の溝が見たこともないあおい火をのぼらせた。
旦那さまはあおい火のあがる地面にころがり、黒い影が炎のようにのびあがる。
と、
「うわああ!!」
黒い影が手のようなかたちになりチョウスケめざした。
ところが、地面のあおい火がそれを止めるように高い壁となる。
じゃらり、と坊主の数珠が鳴り、わらった坊主の口が経のようなものをとなえはじめた。
ひくく耳にここちよいそれに削られるように、黒い人型が、ぼろぼろと崩れてゆく。例えではなく、かたまりとなって。
「す、炭? ・・・じゃ・・ねえな」
チョウスケの足元に、真っ黒なかたまりがべちゃりと落ちる。汚らしいそれが次々と音をたてて庭に落ち、嫌な匂いが漂った。
髪を、焼いたような・・・
『 塩を、派手にまいてくれぬかな。そこな御主人の上にもな 』
坊主が命じ、黒い影はすべて地に崩れ落ち、坊主が数珠を着物の中にしまい合掌すると、ぼっ、と音をたてたあおい火が溝とともに消え去った。
驚きながらもチョウスケはつかんだ塩をヤケになったようにまき散らした。驚いたことに汚いかたまりは塩とともにとけるようになくなった。旦那さまにかけより、さらに力をこめて塩をたたきつけた。
わらった坊主が、うめき声をもらした泥まみれの旦那さまを軽々とかつぎあげ、部屋まで運ぶとチョウスケに事のしだいを説明した。
『 わしは、この近くの荒れ寺に世話になっておるエセ坊主だが、このところ毎晩三人のおなごに押しかけられておってなあ・・・ 』
なんでも、自分たちはとっくに死んでいる身であるのに、旦那さまが成仏するのを許してくれない。どうやらわたしたちに執着するあまり、悪い鬼につけこまれているようだ。自分たちの化身である庭木にも悪い気がたまりすぎてもうすぐ寿命が終わるだろうが、きっとそのときに火を吐いて、周りの人たちを巻き添えにするつもりのようだ。どうか、それを止めてほしい。
「 いやいや、 成仏しなかったのは、奥様たちのほうで」
『 女たちの身の一部を、残したであろう? 』この庭に、と木々に目をむけた。
「へえ!ご存知ですか? でもそりゃあ、奥様の願いで」
『 はてさて、どうかの 』
にっこりとした坊主は、気つけと清めだ、といって薬の包みを三つほどおいていった。
チョウスケが気をきかせて包んだ金を渡そうとすると、かわりに米がほしいと申し出た。
通いのばあさんが漬けた野菜と米をもたせると、さもうれしげに匂いをかぎ、そうそう、となにか思い出したように、チョウスケにたずねた。
「 ―― でなあ、このあたりに大きな乾物屋がないか、なんてきくんだよ」
「かんぶつや!?」
チョウスケが来るまで《乾物屋》のことを考えていたヒコイチは頓狂な声をあげてしまった。




