# 第50話 ## 「第三の子供」
# 第50話
## 「第三の子供」
喫茶店。
空気が凍りついていた。
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灯。
澪。
湊。
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誰も言葉を発せない。
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手紙の最後。
小さな文字。
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**『本当は、もう一人いました』**
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意味が分からない。
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灯が震える声で言う。
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「もう一人……?」
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澪も青ざめている。
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「どういうこと……」
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湊は手紙を読み返す。
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そして。
追記の下にさらに小さな文字を見つける。
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『あの日、同じ病室に三人の赤ちゃんがいた』
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沈黙。
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三人。
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つまり。
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灯と澪だけではない。
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もう一人。
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人生そのものが変わった可能性のある人がいる。
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湊が低く言う。
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「探さないと」
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灯は頷く。
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だが。
胸の奥に違和感があった。
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なぜ今になって。
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なぜ三十年間。
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誰も知らなかったのか。
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その時。
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澪が何かに気づく。
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手紙の裏。
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数字が書いてある。
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病室番号。
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そして。
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名前の一部。
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『……崎』
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そこだけが読める。
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苗字だろうか。
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灯が言う。
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「これだけ?」
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澪は首を振る。
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「消されてる」
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誰かが意図的に。
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名前を消した跡だった。
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空気が重くなる。
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その日の夜。
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三人は別れた。
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灯と湊は部屋へ戻る。
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しかし。
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玄関を開けた瞬間。
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郵便受けに封筒が入っていた。
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差出人なし。
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名前もない。
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ただ。
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灯宛てだった。
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「気持ち悪いですね……」
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灯が呟く。
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湊は慎重に封を開く。
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中には写真が入っていた。
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古い写真。
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病院の新生児室。
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ガラス越しに並ぶ赤ちゃんたち。
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三人。
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確かに三人いる。
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そして。
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写真の裏。
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そこには。
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震える字で書かれていた。
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**『探さないでください』**
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灯の背筋が冷える。
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誰が送ったのか。
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なぜ今になって。
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その時。
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もう一枚。
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小さな紙が落ちる。
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そこには住所。
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そして名前。
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灯は息を呑む。
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湊も固まる。
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そこに書かれていた名前は。
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**『神崎 春人』**
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そして住所は。
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今。
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灯たちが住んでいるマンションから、
徒歩五分の場所だった。
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沈黙。
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灯が呟く。
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「近すぎる……」
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もし。
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本当にその人が第三の子供なら。
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三十年間。
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すぐ近くで生きていたことになる。
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その時。
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玄関のチャイムが鳴った。
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ピンポーン。
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夜十一時。
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灯と湊が顔を見合わせる。
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もう一度。
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ピンポーン。
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そして。
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ドアの向こうから声がした。
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若い男の声。
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震えている。
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「突然すみません」
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沈黙。
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そして。
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「その手紙……届きましたよね?」
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灯の心臓が止まりそうになる。
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男は続けた。
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「僕も」
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「今日、同じものを受け取りました」
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ドア一枚隔てた向こう側に。
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第三の子供が立っていた。
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**第51話「春人」へ続く。**




