# 第49話 ## 「三十年前の約束」
# 第49話
## 「三十年前の約束」
翌日。
灯はほとんど眠れなかった。
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澪から届いたメッセージ。
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『本当のことが分かりました』
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その一文が頭から離れない。
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昼過ぎ。
灯と湊は指定された場所へ向かった。
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小さな喫茶店。
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窓際の席に。
澪はすでに座っていた。
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だが。
昨日とは様子が違う。
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目が赤い。
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泣いたのだとすぐ分かった。
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「澪さん……?」
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灯が座る。
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澪は小さく頷く。
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そして。
一枚の封筒をテーブルに置いた。
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古い封筒。
黄ばんでいる。
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「昨日」
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澪が話し始める。
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「父と母が全部話してくれました」
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静かな声。
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「そして」
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封筒を見る。
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「これを渡されました」
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灯も湊も黙っている。
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澪はゆっくり封筒を開いた。
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中から出てきたのは。
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三十年前の手紙。
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差出人は。
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当時の看護師だった。
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三人は読み始める。
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そこには。
驚くべき事実が記されていた。
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『私は大きな過ちを犯しました』
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『新生児室で二人の赤ちゃんの名札を取り違えました』
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灯の呼吸が止まる。
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澪も涙をこらえる。
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手紙は続く。
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『気づいた時には遅かった』
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『病院は事実を隠そうとした』
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『私は怖くて告発できなかった』
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『ですが』
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『どうしても忘れられません』
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ページが震える。
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『二人の子供が幸せになることだけを願っています』
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喫茶店が静まり返る。
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三十年。
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三十年間隠されていた真実。
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灯は目を閉じる。
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母の顔が浮かぶ。
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父の顔が浮かぶ。
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苦しかった記憶。
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楽しかった記憶。
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全部。
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本物だった。
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その時。
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澪が静かに言った。
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「DNA鑑定もしました」
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沈黙。
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灯の胸が高鳴る。
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そして。
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澪は涙を浮かべながら笑った。
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「本当でした」
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「私たち」
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声が震える。
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「本当に入れ替わっていたんです」
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灯は言葉を失う。
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本当に。
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本当に。
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自分たちは。
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違う家族の元で育った。
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その瞬間。
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灯のスマホが鳴る。
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母だった。
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灯は出る。
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「もしもし」
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数秒。
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そして。
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母は静かに言った。
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「聞いたよ」
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沈黙。
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灯は返事ができない。
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すると母は続けた。
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涙声だった。
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「でもね」
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灯の胸が締め付けられる。
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「あなたが生まれた日から」
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「あなたはずっと私の娘だったよ」
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灯の視界が滲む。
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母は泣きながら続ける。
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「だから」
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「これからも娘でいてくれる?」
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その言葉で。
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灯の中で何かが崩れた。
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そして。
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何かが繋がった。
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血ではなく。
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時間で。
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愛情で。
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人生で。
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家族になったのだと。
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灯は涙を流しながら答える。
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「うん」
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「お母さん」
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その一言で。
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電話の向こうから泣き声が聞こえた。
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そして。
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向かい側では。
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澪も静かに涙を流していた。
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本当の家族。
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それは血ではなく。
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一緒に生きてきた時間なのかもしれない。
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だが。
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その日の帰り際。
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湊はふと気づく。
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手紙の最後に。
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小さな追記があることを。
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そこには。
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たった一行。
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**『本当は、もう一人いました』**
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三人の表情が凍りつく。
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入れ替わった赤ちゃんは。
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二人ではなかった――。
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**第50話「第三の子供」へ続く。**




