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# 第51話 ## 「春人」

# 第51話


## 「春人」


夜十一時。


部屋の前。


---


ピンポーン。


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チャイムが鳴り終わったあとも。


誰も動けなかった。


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ドアの向こう。


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そこにいる。


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神崎春人。


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第三の子供かもしれない人物。


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湊が静かにドアを開く。


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そこに立っていたのは。


二十代後半くらいの青年だった。


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黒髪。


少し疲れた顔。


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だが。


どこか灯と澪に似ている。


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目元だった。


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春人も灯を見て固まる。


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「やっぱり……」


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小さく呟く。


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灯は言葉を失う。


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春人は苦笑した。


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「僕も同じ反応でした」


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手には封筒。


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灯たちに届いたものと同じ。


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写真。


住所。


そして手紙。


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春人は部屋へ入る。


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緊張した空気。


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三人でテーブルを囲む。


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しばらく誰も話さない。


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やがて春人が言った。


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「僕は三日前に全部知りました」


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灯と湊が顔を上げる。


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「ある人から連絡が来たんです」


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「病院の関係者でした」


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沈黙。


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「最初は信じませんでした」


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当然だった。


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突然。


人生が違っていたかもしれないと言われる。


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普通なら笑い飛ばす。


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だが。


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春人はポケットから一枚の写真を出す。


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古い写真。


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若い女性が写っている。


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「母です」


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優しそうな人だった。


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だが。


写真の端には黒いリボン。


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灯が気づく。


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「亡くなったんですか」


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春人は静かに頷く。


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「去年」


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部屋が静かになる。


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春人は続ける。


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「亡くなる前」


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「変なことを言ったんです」


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震える声。


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『もしあなたが本当の子じゃなくても』


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『私はあなたのお母さんだからね』


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灯の胸が強く揺れる。


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昨日。


自分の母が言った言葉と似ていた。


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春人は笑う。


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寂しそうに。


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「意味が分からなかった」


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「でも今なら分かる気がします」


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沈黙。


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その時。


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灯が聞いた。


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「怖くないんですか」


---


春人は少し考える。


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そして答えた。


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「怖いですよ」


---


即答だった。


---


「でも」


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窓の外を見る。


---


「知りたいんです」


---


「本当のことを」


---


灯は頷く。


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同じ気持ちだった。


---


その時。


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春人が一枚の紙を取り出す。


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「実は」


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少し迷う。


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「母の遺品から見つかったんです」


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古い手帳の切れ端。


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そこには。


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ある名前。


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そして電話番号。


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『三上 千鶴』


---


誰も知らない名前。


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だが。


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その下に書かれていた文字で。


全員が凍りつく。


---


**『新生児室担当看護師』**


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沈黙。


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灯が立ち上がる。


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「まさか……」


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春人は頷く。


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「たぶん」


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「手紙を書いた本人です」


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三十年前の真実を知る人。


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唯一の証人。


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もし生きているなら。


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すべてが分かるかもしれない。


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だが。


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春人の表情は暗かった。


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「問題は」


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沈黙。


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「五年前から行方不明なんです」


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部屋の空気が凍る。


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真実に最も近い人物。


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その人は。


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五年前に姿を消していた。


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そして。


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春人は最後にこう言った。


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「でも」


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「昨日」


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スマホを取り出す。


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画面には一通のメール。


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送信者。


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**三上千鶴**


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灯も湊も息を呑む。


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本文はたった一行。


---


**『もう時間がありません』**


---


そして。


---


そのメールは。


---


送信された翌日に。


---


アカウントごと消えていた。


---


真実は近づいている。


---


だが同時に。


---


何か大きな秘密も動き始めていた。


---


**第52話「消えた看護師」へ続く。**


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