# 第46話 ## 「もう一人の灯」
# 第46話
## 「もう一人の灯」
帰り道。
灯はほとんど何も話せなかった。
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街の景色が流れていく。
人が歩いている。
車が走っている。
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なのに。
全部が遠い。
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頭の中では同じ言葉だけが回っていた。
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「取り違え」
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「本来の家族」
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「もう一人の女性」
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理解が追いつかない。
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湊は隣を歩いている。
無理に話しかけない。
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その優しさが今はありがたかった。
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部屋に戻る。
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灯はソファに座る。
そのまま動けない。
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数分後。
ぽつりと言った。
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「もし本当だったら」
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湊が顔を上げる。
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灯は続ける。
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「私って誰なんでしょう」
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震える声。
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「お母さんの娘じゃないなら」
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「私は何なんだろう」
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静かな部屋。
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湊はすぐに答えない。
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そして。
ゆっくり言った。
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「灯さんは灯さんです」
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灯が見る。
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湊は続ける。
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「生まれた場所が違っても」
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「育った時間は消えません」
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「苦しかったことも」
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「嬉しかったことも」
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「全部、灯さんの人生です」
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灯の目が少し潤む。
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湊は小さく笑う。
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「だから急に別人にはなりません」
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その言葉で。
灯は少しだけ息ができるようになった。
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その夜。
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灯は名刺を見つめていた。
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そこに書かれた名前。
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**『朝比奈 澪』**
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同じ年齢。
同じ誕生日。
同じ病院。
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もしかしたら。
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本来なら。
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自分と入れ替わっていたかもしれない人。
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灯は何度も名前を読む。
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朝比奈澪。
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知らない人。
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でも。
知らない気がしない人。
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その時だった。
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スマホが鳴る。
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知らない番号。
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灯の心臓が跳ねる。
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まさか。
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震える指で出る。
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「……はい」
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数秒。
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電話の向こうから。
女性の声。
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静かで。
少し緊張した声。
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「突然すみません」
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灯は固まる。
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女性は続ける。
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「市役所から連絡を受けました」
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沈黙。
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そして。
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「朝比奈澪です」
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灯の呼吸が止まる。
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ついさっき見ていた名前。
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その本人。
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澪も緊張しているのが分かる。
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しばらく沈黙。
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やがて。
澪が言った。
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「変な話ですよね」
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少し笑う。
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「でも」
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声が震えていた。
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「一度だけ」
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「会えませんか」
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部屋の空気が止まる。
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灯は湊を見る。
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湊も静かに頷く。
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逃げても。
答えは出ない。
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灯はゆっくり言った。
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「……会いましょう」
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その瞬間。
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二人の人生を大きく変える出会いが決まった。
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そして翌日。
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待ち合わせ場所へ向かった灯は。
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遠くのベンチに座る一人の女性を見つける。
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同じくらいの年齢。
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長い髪。
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穏やかな横顔。
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そして。
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振り返った瞬間。
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灯は言葉を失った。
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「……え?」
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澪も固まる。
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なぜなら。
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そこにいた女性は。
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驚くほど灯に似ていたからだった。
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**第47話「鏡の向こう側」へ続く。**




