# 第45話 ## 「交差する過去」
# 第45話
## 「交差する過去」
市役所の相談室。
重い沈黙が続いていた。
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灯はまだ整理できていない。
母の子ではないかもしれない。
そんな話を急に受け入れられるはずがない。
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湊も同じだった。
だが今。
別の違和感が生まれていた。
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職員が見つめている書類。
そこに書かれている名前。
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「……この方をご存じですか?」
職員が尋ねる。
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湊は書類を見る。
そして。
固まった。
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そこに書かれていたのは。
父でもない。
母でもない。
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祖母の名前だった。
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「そんな……」
湊が呟く。
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七年前。
父と決裂した頃。
すでに亡くなっているはずの祖母。
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灯も驚く。
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職員は戸惑っていた。
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「この記録がなぜ残っているのか……」
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書類は古かった。
三十年近く前のもの。
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出生届の確認記録。
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そして。
ある病院名。
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灯の出生記録に書かれていた病院と同じだった。
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相談室が静まり返る。
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湊が低く言う。
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「同じ病院……?」
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職員が頷く。
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「偶然とは思えません」
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灯の心臓が大きく鳴る。
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嫌な予感。
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職員はさらに続ける。
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「当時、この病院では」
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ページをめくる。
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「新生児管理の問題が調査された記録があります」
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空気が凍る。
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灯は椅子を掴む。
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「じゃあ……」
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職員は慎重に言う。
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「まだ断定できません」
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「ですが」
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「取り違えが一件だけだったとは限りません」
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その瞬間。
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湊の脳裏に。
亡くなった祖母の顔が浮かぶ。
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優しかった祖母。
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いつも言っていた。
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『人との縁は不思議だねぇ』
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子供の頃は意味が分からなかった。
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でも今。
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まるで。
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何かが一本の線で繋がり始めている。
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その時だった。
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職員がもう一枚の資料を取り出す。
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「実は」
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少し迷う。
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「この件について問い合わせがあったんです」
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灯と湊が顔を上げる。
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「三か月前に」
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沈黙。
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「別の女性から」
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灯の息が止まる。
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「自分の出生記録を調べてほしいと」
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ページがめくられる。
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そこにあった名前。
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灯も知らない。
湊も知らない。
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一人の女性。
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年齢は灯と同じ。
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生年月日も同じ。
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そして。
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出生病院も同じだった。
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灯の顔から血の気が引く。
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職員が静かに言う。
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「もしかすると」
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「その方が」
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「本来の家族を探している可能性があります」
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相談室が静まり返る。
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灯は震える声で聞く。
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「……その人は」
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「今どこにいるんですか」
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職員は答える。
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「分かりません」
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「ですが」
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一枚の名刺を差し出した。
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「連絡先だけは残っています」
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灯は名刺を見る。
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そこに書かれた名前。
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そして。
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勤務先。
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見覚えがあった。
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灯の目が大きく開く。
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「え……」
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湊も名刺を見る。
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そして驚く。
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その女性が働いている場所。
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それは。
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灯が以前働いていた会社だった。
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つまり。
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二人は。
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すでにどこかで出会っていたかもしれない。
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そして。
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知らないまま。
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人生がすれ違っていたのかもしれない。
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**第46話「もう一人の灯」へ続く。**




