# 第2部 家族の距離 編 ## 第41話
# 第2部 家族の距離 編
## 第41話
### 「会いたい理由」
数日後。
灯は落ち着かない朝を迎えていた。
テーブルには朝食。
でも手が止まる。
パンをちぎっては戻し、
コーヒーを飲んではカップを置く。
その繰り返し。
湊は向かいで静かに見ていた。
そして言う。
「緊張してますね」
灯は即答する。
「してません」
「してます」
「してません」
「してます」
数秒後。
灯が負けた。
「……してます」
湊は少し笑う。
久しぶりに、
普通のやり取りだった。
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今日は母と会う日。
病院ではない。
退院後、
初めての面会。
駅前の小さな喫茶店。
あの日、
湊が過去と向き合った場所とは別の店だ。
でも灯には十分緊張する。
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「行きたくないです」
灯が言う。
湊は頷く。
「分かります」
「逃げたいです」
「それも分かります」
灯はため息をつく。
「否定してくださいよ」
湊は少し考える。
そして言う。
「でも行くんですよね」
灯は黙る。
数秒後。
小さく頷く。
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逃げたい。
怖い。
でも会いたい。
昔なら、
この気持ちはなかった。
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湊は立ち上がる。
「じゃあ行きましょう」
灯も立つ。
少しだけ深呼吸。
そして二人は部屋を出た。
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駅前の喫茶店。
窓際の席。
母は先に来ていた。
退院したばかりだからか、
少し痩せて見える。
灯の姿を見つける。
少しだけ笑う。
昔の灯なら、
その笑顔を見るだけで身構えた。
でも今は違う。
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「こんにちは」
灯が言う。
母も言う。
「こんにちは」
その一言だけで、
少しだけ空気が変わる。
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湊は少し離れた席へ移動した。
二人だけで話せるように。
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沈黙。
コーヒーが運ばれる。
数分。
誰も話さない。
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やがて。
母が口を開いた。
「ごめんなさい」
灯は固まる。
予想していなかった。
母は続ける。
「何から謝ればいいか分からないけど」
「たぶん」
少し笑う。
寂しそうに。
「私はずっと怖かったの」
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灯は黙って聞く。
母は続ける。
「あなたが離れていくのが」
「一人になるのが」
「失うのが」
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その言葉は本音だった。
たぶん初めて聞く本音。
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「だから縛った」
母は言う。
「心配してるふりをして」
「あなたのためだと言って」
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灯の胸が痛む。
でも今回は違う。
逃げない。
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「苦しかったよ」
灯は言った。
母の目が揺れる。
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「でも」
灯は続ける。
「嫌いじゃなかった」
涙が滲む。
「ずっと言えなかっただけ」
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母が泣く。
静かに。
声を出さずに。
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灯も泣く。
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喫茶店の窓から、
春の光が差し込む。
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その時。
離れた席にいた湊のスマホが震えた。
知らない番号。
画面を見る。
そして。
湊の表情が変わる。
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電話に出る。
数秒。
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湊は立ち上がった。
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灯が気づく。
「湊さん?」
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湊は振り返る。
顔色が悪い。
今まで見たことがないくらい。
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そして言った。
「父が倒れたそうです」
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その瞬間。
物語は再び大きく動き始める。
**――第42話「会いたくなかった人」へ続く。**




