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## 第37話 ### 「同じ場所へ帰る」

## 第37話


### 「同じ場所へ帰る」


病院を出た頃には、

空が少し青くなり始めていた。


朝の手前。


夜と朝の境界。


灯は自動ドアを抜けたところで立ち止まる。


冷たい空気を吸う。


肺の奥が少し痛い。


でも、

不思議と苦しくはなかった。


---


湊が隣に並ぶ。


「タクシー呼びますか」


灯は少し考えて、

首を振る。


「……歩きたいです」


湊は頷く。


「分かりました」


---


街はまだ静かだった。


人も少ない。


コンビニの明かりだけが、

妙に白く見える。


灯は歩きながら、

ぼんやり呟く。


「変な感じです」


湊が見る。


灯は少し笑う。


「ずっと怖かったのに」


「会ったら、もっと分からなくなりました」


湊は静かに聞いている。


灯は続ける。


「嫌いになれたら楽だったんですけどね」


その声は、

少しだけ寂しかった。


---


湊は少し考えてから言う。


「家族って」


間。


「割り切れないことの方が多い気がします」


灯は小さく笑う。


「経験者みたいですね」


湊も少しだけ笑う。


「まあ、多少は」


そのやり取りが、

少しだけ二人を普通に戻す。


---


信号待ち。


赤い光が二人を照らす。


灯はふと聞く。


「湊さん」


「はい」


「もし私が、また迷ったら」


少し間。


「ここにいてもいいですか」


その質問は、

確認みたいで。


でも本当は、

願いに近かった。


---


湊はすぐには答えない。


数秒、

ちゃんと考える。


そして静かに言う。


「いてください」


灯の目が少し揺れる。


湊は続ける。


「帰ってきたいと思ったなら」


「何回でも」


その言葉で、

灯の胸の奥がじんわり熱くなる。


---


青信号。


二人はまた歩き出す。


並んで。


同じ速度で。


---


部屋に戻ると、

朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。


いつもの部屋。


小さなテーブル。


少し散らかったソファ。


洗い忘れたマグカップ。


でも。


病院のあとだからか、

その全部が少し違って見える。


灯はぽつりと言う。


「……帰ってきた」


その瞬間。


湊の動きが少し止まる。


灯も自分で気づく。


今、

自然に言った。


“戻った”じゃなくて。


“帰ってきた”。


---


湊は小さく笑う。


「おかえりなさい」


静かな声。


でも、

今までで一番あたたかかった。


---


灯は少しだけ泣きそうになりながら、

笑う。


「……ただいま」


その言葉で。


ようやく。


この物語のタイトルが、

二人の中で本当の意味を持ち始めた。


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