↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/51

## 第32話 ### 「触れたくなる温度」

## 第32話


### 「触れたくなる温度」


次の日の朝。


雨は止んでいた。


窓の外には、

薄い光がゆっくり広がっている。


灯は珍しく先に起きていた。


キッチンに立つ。


冷蔵庫を開けて、

少し悩む。


卵。


食パン。


ベーコン。


「……簡単なのなら」


小さく呟く。


昨日の夜。


“支える”って言った。


だったらまず、

できることから始めようと思った。


フライパンを出す。


でも次の瞬間。


「あっ」


卵を落とす。


ぐしゃ。


沈黙。


灯は固まる。


床に広がる黄色。


最悪だった。


その時。


後ろから声。


「朝から事件ですね」


灯が振り返る。


湊が立っていた。


少し寝癖。


いつもよりラフな姿。


灯は慌てる。


「す、すみません!」


「やろうと思ったんですけど……!」


湊は数秒だけ床を見る。


そして――


吹き出した。


「……ふっ」


灯が止まる。


湊は肩を押さえながら笑っている。


ちゃんと笑っている。


昨日までの、

無理に作った笑顔じゃない。


灯は目を丸くする。


「え」


湊は息を整えながら言う。


「いや……すみません」


「ちょっと予想以上で」


灯は顔を赤くする。


「笑わなくてもいいじゃないですか!」


湊はまだ少し笑っている。


「ごめんなさい」


でもその声は、

すごく柔らかかった。


---


数分後。


二人で床を拭いていた。


灯はまだ少し不機嫌。


「絶対、失敗すると思ってましたよね」


湊は少し考える。


「半分くらいは」


「ひどい」


その返しがあまりにも普通で、

二人とも少し止まる。


普通。


それが今、

一番珍しかった。


---


朝食は結局、

二人で作ることになった。


湊が焼いて、

灯が皿を並べる。


その途中。


灯がふと聞く。


「……昨日のこと」


湊の手が少し止まる。


灯は続ける。


「後悔してますか」


静かな問い。


湊はしばらく考える。


そして言う。


「怖くはあります」


「でも」


少しだけ灯を見る。


「後悔はしてません」


その言葉に、

灯の胸が少し熱くなる。


---


食卓。


小さな朝。


でも。


昨日までとは、

確実に違う空気があった。


その時。


スマホが震える。


二人の動きが止まる。


湊が画面を見る。


非通知。


空気が少しだけ張る。


数秒。


湊は出ない。


その代わり、

メッセージが入る。


短い文。


『まだ終わってないよ』


灯の顔が曇る。


でも今度は、

昨日ほど崩れない。


湊はスマホを伏せる。


小さく息を吐く。


そして言う。


「……朝ごはん、冷めますね」


灯は少しだけ笑う。


「話そらしました?」


「少しだけ」


そのやり取りが、

妙に安心できた。


---


けれど。


二人はまだ知らない。


“過去”は、

終わらせようとすると、

一番強く戻ってくることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。