「消えそうな笑顔」
第3話
「消えそうな笑顔」
次の日。
湊は仕事中も、
昨夜の灯の言葉が頭から離れなかった。
> 「もし、私が急にいなくなったら……」
あの時の表情。
無理に作った笑顔。
伏せられたスマホ。
気にならないわけがなかった。
けれど。
踏み込みすぎるのも違う気がした。
だから湊は、
結局なにも聞けなかった。
夜九時。
残業を終えた湊は、
少し急ぎ足でアパートへ向かっていた。
――今日は灯さんいるかな。
そんなことを考えている自分に、
少し驚く。
階段を上がる。
二〇三号室。
その隣。
二〇四号室の前で、
湊は足を止めた。
……暗い。
いつも漏れている灯りが、
今日はなかった。
「……まだ帰ってないのか」
そう呟きながらも、
胸の奥が少しざわつく。
湊は部屋に入り、
コンビニ袋を机に置いた。
静かだった。
昨日まで、
誰かの声があったせいだろうか。
一人の部屋が、
やけに広く感じる。
「……ただいま」
返事はない。
分かっているのに。
少しだけ、
寂しかった。
その時。
ガタン。
外から、
何か落ちる音がした。
湊はすぐに扉を開ける。
すると。
二〇四号室の前で、
灯がしゃがみ込んでいた。
コンビニ袋が倒れ、
床にペットボトルが転がっている。
「灯さん!?」
湊は駆け寄った。
灯は慌てて笑おうとする。
「だ、大丈夫です……」
でも。
顔色が明らかに悪い。
呼吸も少し荒い。
「全然大丈夫じゃないですよ」
湊は落ちた荷物を拾いながら言った。
すると。
灯のスマホが、
また震えた。
画面が一瞬だけ見える。
そこに表示されていた名前。
『母』
その瞬間。
灯の肩が、
小さく震えた。
湊は気づく。
灯は――
電話に出るのを、
怖がっていた。




