↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/51

「選ぶのは誰でもない」


「選ぶのは誰でもない」


大学職員の女性は、

湊と灯の顔を交互に見たあと、

静かに言った。

「正直に言います」

「このままだと、灯さんは“保護対象としての確認手続き”に入る可能性があります」

部屋の空気が固まる。

灯の指先が震える。

「……保護?」

その言葉は、

安心ではなく“管理”の匂いがした。

女性は続ける。

「ご家族からの申請があれば、生活状況の確認が入ります」

「その場合、現在の居住は継続できない可能性があります」

湊の目が少しだけ鋭くなる。

「それは本人の意思より優先されるんですか」

女性は少しだけ黙る。

「状況によります」

その曖昧さが一番重い。

灯はゆっくりと立ち上がる。

「……じゃあ私は」

声が震えている。

でも止めない。

「どこにいても、戻されるかもしれないんですか」

誰もすぐに答えられない。

沈黙。

その中で、灯は初めて顔を上げた。

湊を見る。

そして言う。

「湊さん」

「私、ずっと決めてもらってました」

「逃げるのも、残るのも」

湊の呼吸が止まる。

灯は続ける。

「でも今は違うって言われても」

「どうやって“自分で決める”のか分からないです」

その瞬間。

湊の中で何かが崩れる。

(この子はまだ“選び方”を知らない)

湊は一歩前に出る。

初めて、

はっきりと感情を出すように言う。

「じゃあ、今ここで覚えればいいです」

灯が目を見開く。

湊は続ける。

「誰かに決められる前に」

「一回、自分で選びましょう」

灯の声が小さくなる。

「……何を?」

湊は少しだけ間を置いてから言う。

「ここに残るか、戻るか」

空気が止まる。

女性も黙る。

灯は震えながら、

ゆっくり息を吸う。

そして――

初めて、自分で口を開く。

「……私は」

長い沈黙。

湊が見守る。

灯の目が揺れる。

でも、逃げない。

そして。

「私は、まだここにいます」

その言葉は小さい。

でも確かだった。

その瞬間。

部屋の空気が、

ほんの少しだけ変わる。

“決められた場所”から

“選んだ場所”へ。

だが――

女性は静かに言う。

「分かりました」

「では、その選択を“記録”します」

その言葉で現実は終わらない。

むしろ、

ここから始まる。

湊は小さく息を吐く。

(これは終わりじゃない)

(選んだ瞬間から、責任が始まる)

灯はまだ震えている。

でも、

もうさっきとは違う震えだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。