「光るだけの通知」
「光るだけの通知」
スマホは、ただ一度光っただけだった。
音もない。
振動もない。
それなのに、
灯の視線はそこから離れなかった。
画面に表示されているのは、
さっきとは違う通知。
「保証人連絡先更新」
短い文字列。
たったそれだけなのに、
胸の奥がざわつく。
湊も気づいていた。
でも、すぐには口を挟まない。
灯がどう受け取るかを、
待っている。
「……これ」
灯が小さく声を出す。
「どういう意味なんでしょう」
湊はスマホを見ずに答える。
「向こうが、動きを変えてきてる可能性があります」
灯の指がわずかに震える。
「動き……」
湊はゆっくり頷く。
「直接連れ戻すんじゃなくて」
「連絡経路を固めるとか、手続きで追い込むとか」
灯の顔が少しずつ白くなる。
「じゃあ……もう逃げられないってことですか」
その言葉は、
ほとんど声になっていなかった。
湊はすぐに否定しない。
ここで“安心させる嘘”は言えない。
代わりに、
静かに言う。
「逃げる、という考え方を変えた方がいいかもしれません」
灯が顔を上げる。
湊は続ける。
「今はもう、“逃げるか戻るか”じゃないです」
「“どう守るか”です」
その言葉に、
灯の呼吸が少し乱れる。
守る。
そんな言葉、
今まで自分には関係ないと思っていた。
守られる側でしかないと。
湊は立ち上がり、
窓の外を見る。
「向こうは“制度”で来てます」
「だから同じ土俵に立つ必要があります」
灯は小さく聞く。
「同じ土俵って……」
湊は振り返る。
その目は、
いつもの穏やかさより少しだけ強い。
「一人じゃなくなることです」
静かな一言。
灯はその言葉を、
ゆっくり飲み込む。
「……私」
声がかすれる。
「今まで、ずっと一人だった気がします」
湊はすぐに否定しない。
ただ、少しだけ間を置いて言う。
「だから、今から変えればいいです」
灯の目が揺れる。
「簡単に言いますね」
小さく笑う。
でもその笑いは、
少しだけ本音だった。
湊は少しだけ肩をすくめる。
「簡単じゃないです」
「でも、やることはシンプルです」
灯は黙る。
湊は続ける。
「話す相手を増やす」
「状況を整理する」
「一人で決めない」
その一つ一つが、
灯の中に落ちていく。
その時だった。
またドアが鳴った。
コン、コン。
今度は違う。
さっきのような強さじゃない。
でも、
確実に“続き”だった。
灯の肩が固まる。
湊はゆっくりドアを見る。
一拍置いて。
静かに言う。
「……今度は誰でしょうね」
その声は落ち着いているのに、
確かに現実を引き戻す音だった。
灯は立ち上がれないまま、
ドアを見つめる。
外の世界は、
もう“待つ側”ではなくなっていた。




