第二十四章 二百二十回目、最後の一回(後編)
「――待て! まだ、私は認めていない!」
ヴォルガンが、最後の抵抗とばかりに、杖を遺物に向けた。
「契約は、私が完成させる。二百年分の計画を、こんな場所で終わらせてなるものか!」
「ヴォルガン殿」
カストルの意志が、遺物を通じて、静かに、しかし重々しく響いた。
「――お前は、私の研究を、都合よく利用してきた。だが、忘れるな。この契約を設計したのは、私自身だ」
「カストル殿……!?」
「私が最後に望んだのは、誰かを苦しめ続ける仕組みが、永遠に続くことではない。……いつか、この呪縛を終わらせる者が現れることを、私は、密かに願っていた」
「そんな、馬鹿な。あなたの意志は、とうに消えたはず」
「意志は消えても、後悔は、遺物に刻まれ続ける。――アーヴァインの娘。お前の選択を、私は、支持する」
遺物が、ヴォルガンの杖から放たれる光を、まるで拒絶するように、強く反発した。
「――ぐっ!」
ヴォルガンが、弾かれるように後退した。
「馬鹿な、契約管理者としての権能が、拒絶される、だと……!?」
「終わりよ、ヴォルガン」
リゼルが、遺物に、より深く体を沈めるように、両手を押し当てた。
「私、リゼル・アーヴァインは、正真正銘の死を選ぶ。父、エドワード・アーヴァインの想いと共に。母、セレーネ・アーヴァインの声と共に。弟、アルテア・アーヴァインの姿と共に。そして、遠くにいる、クレア・アーヴァインの願いと共に」
光が、爆発的に強まった。
「――ドロテア」
「はい、お嬢様」
「二百年間、ありがとう。あなたがいなければ、私はきっと、とっくの昔に、心が壊れていた」
「――もったいないお言葉です」
ドロテアの目に、涙が滲んでいた。二百年間、一度も見せたことのない、感情の発露だった。
「お嬢様。私も、あなたに救われました。護衛としての役目を果たせなかった無能な男を、二百年間、側に置いてくださった。それだけで、私の人生には、意味がありました」
「アルテア」
「はい、姉上」
「あなたは、これから、あなた自身の人生を、生きて。傀儡としてでも、姉の代わりとしてでもなく、アルテア・アーヴァインとして」
「――必ず。姉上の分まで」
「レオン」
「はい」
「あなたの一族の呪いは、これで終わる。これからは、鍛冶師として、あなた自身の道を歩んで」
「ありがとうございます、アーヴァインのお嬢様」
「そして――クレア」
リゼルは、遠くにいるはずの少女に向かって、届くかどうかも分からない言葉を、静かに紡いだ。
「約束、守れなくて、ごめんね。でも、あなたには、これから、ちゃんと生きる自由がある。それを、大切にして」
光が、リゼルの体を、完全に包み込んだ。
「――さようなら。二百二十回、私に付き合ってくれて、ありがとう」
その言葉を最後に、リゼルの意識は、まばゆい光の中に、静かに溶けていった。
秘宝庫全体が、まばゆい閃光に包まれ、そして――
次の瞬間、すべてが、静寂に包まれた。




