第二十三章 レオンとミラの選択
遺物の光が強まる中、レオンは、自分の両手を、静かに見つめていた。
「――執事殿」
レオンが、剣を構えたままのドロテアに、声をかけた。
「私の一族の呪いも、この瞬間に、終わるということですね」
「恐らくは」
「正直に言えば、複雑な気持ちです」
レオンは、苦笑した。
「二百年間、鍛冶の才を持てないことを、一族の恥のように感じてきました。ですが、この瞬間、その呪いが解けると分かった今――なぜか、少しだけ、寂しさを感じています」
「呪いにも、慣れというものがありますからね」
「――ええ。それに」
レオンは、リゼルの方を見た。
「呪いが解けても、私が鍛冶の才を取り戻せるわけではない。ただ、これ以上、一族に代償が積み重ならなくなるだけです。それでも、十分だと、思わなければなりませんね」
「十分ですよ」
ドロテアが、静かに頷いた。
「呪いの連鎖を断ち切る、ということ自体が、大きな救いです。あなたの子孫が、二度とこの重荷を背負わずに済む――それだけで、あなたの二百年には、確かな意味があったのです」
「――そうですね」
レオンは、深く息を吸い込んだ。
「アーヴァインのお嬢様。あなたの選択に、感謝します。私の一族を代表して」
リゼルは、光の中で、レオンに向かって、静かに微笑んだ。
村では、ミラ――クレアが、グレイス婆さんに支えられながら、遠く王都の方角を見つめていた。
「クレア。体の具合は?」
「大丈夫。さっきより、ずっと楽になった」
クレアは、自分の胸の痣に、そっと触れた。もう、光を放ってはいない。ただ、静かに、確かにそこに在り続けている。
「グレイス婆さん。私、遠くにいるのに、なぜか分かるの。今、王都で、リゼル姉さまが、大きな決断をしようとしている」
「――そうかい」
「怖くないのかな、姉さま。私だったら、きっと、怖くて動けなくなる」
グレイス婆さんは、クレアの頭を、優しく撫でた。
「あんたのお母さんも、似たようなことを言っていたよ。『怖くても、進まなきゃいけない時がある』ってね」
「母さんが……」
「あんたの母さんは、あんたを守るために、王都から命懸けで逃げてきた。その勇気を、あんたも、ちゃんと受け継いでいるはずだよ」
クレアは、遠くの空を見つめながら、両手を強く握りしめた。
「――姉さま。届いているか分からないけど、私も、応援してる」
その言葉が、血の繋がりという見えない糸を通じて、確かに王都まで届いたのかどうかは、誰にも分からなかった。だが、少なくとも、クレア自身の心の中には、確かな覚悟が芽生えていた。
「グレイス婆さん。私、決めた」
「何をだい?」
「もし、姉さまが戻ってきたら――今度は、私が、姉さまの側にいる。アーヴァインの血を引く者として、これから、ちゃんと一緒に生きていく」
グレイス婆さんは、目を細めて、静かに頷いた。
「いい選択だよ、クレア。あんたのお母さんも、きっと喜ぶだろうね」
王都の秘宝庫では、リゼルが、遺物に、両手をしっかりと当てていた。
「アルテア。ドロテア。レオン。――そして、遠くにいる、クレア」
「はい、姉上」
「私は、二百二十回、死のうとして、失敗し続けた。でも、今度こそ、二百二十一回目――最後の一回を、正しく、終わらせる」
光が、リゼルの体を、ゆっくりと包み始めた。
「後悔は、ないですか」
アルテアの問いに、リゼルは、穏やかに笑った。
「後悔がないと言えば、嘘になる。でも――今この瞬間、私は、確かに『選んだ』の。それだけで、十分」




