表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の令嬢は死に方を忘れた  作者: わがままな饅頭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/28

第二十章 もう一人の生き残り

 ヴォルガンの杖から放たれた紫の光が、秘宝庫の空間を歪ませた瞬間――遠く離れた村で、異変が起きていた。


「――っ!」


 ミラが、突然、胸を押さえてうずくまった。


「ミラ! どうしたんだい!」


 グレイス婆さんが、慌てて駆け寄る。ミラの体は、まるで高熱にうなされているかのように、小刻みに震えていた。


「熱い……胸の奥が、熱いの……」


「医者を、いや、それより――」


 グレイス婆さんの脳裏に、長年、心の奥にしまい込んできた記憶が、蘇った。


 ミラの母親が、赤子のミラを連れてこの村に流れ着いた、あの日のこと。母親は、疲れ果てた様子で、こう漏らしていた。


「――この子には、アーヴァインの血が流れている。だから、遠くへ、逃がさなければ」


 当時、グレイス婆さんは、その言葉の意味を深く問い詰めなかった。混乱した母親の、単なる譫言だと思っていたからだ。だが今、目の前で苦しむミラの様子を見て、その記憶が、急に確かな重みを持って蘇ってきた。


「――ミラ、あんた、胸の辺りに、痣はないかい」


「痣……?」


「見せてごらん」


 ミラが、震える手で服の襟元を緩めると、鎖骨の下あたりに、小さな、花のような形をした痣が、うっすらと浮かび上がっていた。それは、まるで熱に反応するように、淡く光っている。


「これは……」


 グレイス婆さんは、息を呑んだ。それは、アーヴァイン家の紋章と、酷似した形をしていた。


「ミラ。あんたの母親は、もしかすると――アーヴァイン家の、遠い血縁だったのかもしれないね」



 秘宝庫での戦いは、激しさを増していた。


「アルテア、名前を!」


 リゼルが、遺物の前で叫んだ。護衛たちとドロテア、レオンの戦いが、周囲で繰り広げられる中、リゼルとアルテアだけは、遺物の前に留まっていた。


「はい――父上、エドワード・アーヴァイン。母上、セレーネ・アーヴァイン。そして、僕――」


 アルテアが、深く息を吸い込んだ。


「僕の、本当の名は――アルテア・アーヴァイン」


 名前が呼び上げられるたびに、遺物が、淡く反応するように光を強めていく。だが同時に、リゼルは、奇妙な違和感を覚えていた。


(何か、足りない。名前を呼んでいるのに、遺物の反応が、中途半端……)


「――待て」


 ヴォルガンが、その様子に気づき、杖を構え直した。


「その儀式、無駄だぞ。契約に登録された血縁者の名を、全て呼び上げなければ、無効化は成立しない」


「全員、呼んだはずよ。父、母、私、そしてアルテア」


「――本当に、それで全員か?」


 ヴォルガンの口元に、不気味な笑みが浮かんだ。


「二百年前、アーヴァイン家の血を引く者は、お前たち二人だけではなかったのだがな」


「――どういう、こと」


「知らぬのも無理はない。当時、まだ赤子だった、もう一人の血縁者がいたことを」


 リゼルの脳裏に、稲妻のように、ある記憶が蘇った。父の手紙の一節――『アーヴァインの血を継ぐのは、お前たち二人だ』という言葉。だが、それは本当に「二人」だったのか?


(お父様は、私とアルテア、二人のことを言っていたと思っていた。でも、もし――)


「グレイス婆さんの、村に流れ着いた、あの母子……」


「――思い出したか」


 ヴォルガンが、愉快そうに笑った。


「アーヴァイン家の、傍系の血を引く女性が、粛清の混乱の中、密かに屋敷を脱出していた。その女性が産んだ子――それこそが、契約に登録された、四人目の血縁者だ」


「ミラ、なの……?」


 リゼルの声が、震えた。


「その通り。彼女もまた、契約の一部。四人全員の名が呼ばれない限り、無効化の儀式は、決して完成しない」


 遺物の光が、不安定に明滅している。まるで、儀式が中途半端な状態のまま、宙吊りにされているかのように。


「――ミラを、ここに連れてこなければならない」


「間に合うと思うか? ここから村までは、馬車でも半日はかかる。その間に、私が契約を完成させれば、全てが手遅れになる」


 ヴォルガンが、杖を高く掲げた。


「悪いが、待つつもりはない。今、この場で、契約を完成させてもらう」


 秘宝庫全体が、紫色の光に包まれ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ