表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の令嬢は死に方を忘れた  作者: わがままな饅頭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/28

第十四章 二百年分の執事の意地

 リゼルの声が届いたのか、金色の瞳をした弟の剣筋に、わずかな乱れが生じた。


 その一瞬を、ドロテアは見逃さなかった。


「――そこだ」


 鈍ったはずの剣が、正確に相手の小手を打った。金色の瞳をした何かが、痛みに顔を歪める。


「小癪な」


「小癪で結構。二百年、小癪な執事で通してきたのでね」


 ドロテアは、間合いを詰めながら、静かに語りかけた。


「――若君。あなたの中に残る意志に、問いたい」


「執事、貴様」


「二百年前、あなたはまだ五歳の子どもだった。何も知らぬまま、身代わりの子を犠牲に、生き延びさせられた。それは、あなたの罪ではない」


 剣を交えながらの言葉に、金色の瞳が、再びわずかに揺らいだ。


「あなたが今、姉君を裏切るような真似を続けてきたのも、傀儡としての支配下にあったからだ。それも、あなたの罪ではない」


「黙れ」


「ですが」


 ドロテアの声が、一段と強くなった。


「先ほど、あなたが姉君の寝顔を見つめながら、『裏切るような真似を続けてきた』と悔いていたことを、私は聞いていました。あれは、紛れもなく、あなた自身の意志だった」


「――っ」


「ならば、今この瞬間もまた、あなた自身の意志で、抗ってみせなさい。二百年前、まだ幼かったあなたを守れなかった私からの、最後の詫びとして――今度こそ、あなたを取り戻す手伝いをさせてください」


 金色の瞳が、大きく見開かれた。まるで、内側で何か大きなものが、せめぎ合っているかのように。


「僕、は……」


 弟の声が、金色の響きと、本来の声との間で、激しく揺れ動いた。


「姉、上を……守り、たい……でも、体が……」


「弟!」


 リゼルが、危険を承知で、剣戟の間合いに踏み込んだ。


「お嬢様、なりません!」


 ドロテアの制止も間に合わなかった。だが、リゼルが弟の前に立った瞬間――金色の瞳をした剣が、なぜか、止まった。


「――なぜ、止まる」


 声が、二重に響いていた。金色の響きと、弟本来の声が、同時に。


「姉上を、傷つけることは……できない……!」


 弟の体が、その場に崩れ落ちた。両手で自分の頭を抱え、苦悶の声を上げる。


「レオン、彼を!」


 エルフリーデの指示で、レオンが弟の体を抱きかかえた。


「意識は、ありますか」


「――かろうじて」


 弟の瞳は、緑と金色の間で、不安定に揺れ続けていた。


「姉上……申し訳、ありません。僕の意志だけでは、完全に、この体を取り戻せません」


「謝らないで。ここまで、抗ってくれただけで、十分よ」


 リゼルは、弟の頭をそっと抱きしめた。


「ドロテア。今の状態を、これ以上悪化させない方法は?」


「――恐らく、一時的にでも、ヴォルガンとの接続を断つ必要があります。ですが、それには」


「それには?」


「契約の根幹――アーヴァインの秘宝そのものに、直接触れる必要があるかもしれません」


 リゼルの目が、見開かれた。


「あの遺物は、まだ王宮のどこかに?」


「恐らくは。ヴォルガンが、宮廷魔導士としての立場を利用して、二百年前に回収し、今も王宮の奥深くに保管している可能性が高いです」


 エルフリーデが、頷いた。


「宮廷魔導士の管轄する『秘宝庫』――そこに、探しているものがあるかもしれない」


「案内、できますか」


「――危険を伴うわ。あそこは、宰相府の目が最も厳しい場所の一つだから」


 リゼルは、腕の中の弟を見つめた。金色と緑の間で揺れ続ける瞳。この状態を長引かせれば、いずれ、弟自身の意志が完全に呑み込まれてしまうかもしれない。


「行きましょう。今度こそ、全てに決着をつけるために」


 ドロテアが、静かに剣を鞘に収めた。


「二百年分の意地、まだ見せ足りませんので――お供いたします」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ