名は繋ぐために
「ばかなのにゃ。」
カールのひと言で、俺たちは集められた。
日中の宴の中心として使われた、石の集落の中でも、広い建物。
そこに、総勢二十数名ほどがぐるりと円形に並んで座っている。
王国辺境伯領から招かれた人間たちだ。
穀物家付きの二人も同席している。
ここにいない人間は、ジャンヌとバルカ。
それから教国の二人だけだ。
「そうね。ラヴィ一人を見守れば良いという問題ではなかったわね。」
そう答えたのは、ルネという有翼種だ。
イシュの民側は、紫露と橙たち、ウェルト、クローバーとイヨも参加している。
「後天的例外種、つまり、逃亡旅団のみんなを各国に売る。団長の名を使いたいのは理解するが、狸の皮を被るのは無理だ。そういうのができる性格ではない。」
いつもの瑠璃語は鳴りを潜め、その口調には威厳が漂う。
なるほど、見事なまでに皮を被るものだ。
「お前さんほど見事に化けなさるのは、なかなかおりんせん。」
随分と知った仲であるように継ぐ紫露。
「趣味だ。好きこそものの上手なれ、と言うだろう。だか今はそれは良い。適材適所という話で進めようではないか。」
「そうね。そのためにもまずはイヨ、あなたが天文国でやったこと、それを共有しましょう。」
イヨは、逃亡旅団の出戻り組であり、単身天文国に乗り込んだ者だ。
ラヴィが旅先でルネを勧誘し、イヨも連れ帰った。
我々としての認識は、その程度だ。
「趣味だ。演技指導と布教をしたまで。なに、怒りの演技指導だよ。」
ルネに促され、脇に置いたはずの趣味の話に戻る。
「上手くやったと、そう言いたいのだな。」
「いかにも。」
ルイスがまとめる。
確かにそれを為したのであれば、実に上手い。
イシュの民が怒ったように見えるだけで、軍事的な意味は大きい。
「乱発はできんにゃ。」
「その通りだな。俺たちが少数だからこそ、価値があった。帝国の怒れる兎にも、価値が見出された。」
カールが制し、ウェルトが整理する。
ラヴィに価値が見出されたのも、王化の怪という強力な前例があってこそなのだ。
「あかん、勉強不足過ぎて、今何の話が進んでんのか見失っとるわ。」
「確かにな。」
「まずイヨが別人みたいになっとるんが一番わからへん。もう話の筋どころやないねん。」
「後天的例外種と言い出したのは知ってたが、売るって何だ。怒れる兎はラヴィだよな。少数の俺たちってところにも共通点があるとすると、怒れるのか?」
「ちょ、待て。後天的例外種って半分はうちのモンらなやいか!」
なるほど、カイとレンは理解が及ばんか。
退室させるべきか。
「ばかなのにゃ。知らん同士にゃ答えは出んにゃ。」
カールは賢い。
他のイシュの民と同じ動機では判断しないはずだが、さ。
「聞けにゃ。話はそれからにゃ。」
ほう、引き込むか。
「今のうちに追い出す手もあるぞ。」
ルイスが釘を刺す。
「イシュの民は敵対なんてしないにゃ。」
「追い出すことは、敵対だと?」
「ヴァントゥの連れにゃ。」
「ヴァントゥ?」
「……ツッキーのことや。」
「……そうか、すまなかった。カイたちを追い出せん理由としては十分だ。」
都合よく利用されることの多いイシュの民に、それでも愛称を付けていた。
カールがカイを除け者にしようとしない理由が、少しだけ分かった気がした。
反乱軍の兵に、物干し槍で貫かれたイシュの民だ。
ルイスもあの愛称と繫がったようだ。
「出戻り組のほとんどが、カイのとこのモンたちだ。カイに内緒というわけにもいくまい。」
「いや、マジで違和感ごっついわ。なんでそないにキマってんねん。」
「なんだ。擁護してやらんぞ?場と立場くらい弁えられるというだけだ。」
「はっはっは!瑠璃一派の代表に擁護されるのだ。甘んじて受け入れるがよい。」
そこに理屈も何もなく、クローバーが抗議を打ち切る。
カイの本筋外れな軽口に対しては、丁度いい。
まったく、少し見直したと思ったらこれだ。
「そもそも、団長はよそ者である。まずはそこからだ。」
「ああ、帝国の怒れる兎ってやつだしな。」
一方でレンの方は、しっかりと既出の情報を整理しようと努めているようだ。
「人間が何と呼ぼうが関係ない。団長は、ここ、ガン・イシュ出身だということが言いたいだけだ。」
「名は、あたしが使ってやるにゃ。」
王化の怪。
怒れる兎。
逃亡旅団。
後天的例外種。
関連する名だ。
指折り数える姿がいくつも目に入る。
「適材適所という話に繋がるわけですね。」
静かに話を聞いていたカタリナがそう言うと、隣のファルスが何度も頷く。
彼女たちも指を折っているが、二本で止まっている。
あまり知られていない王化の怪を指に乗せるのは難しい。
逃亡旅団と後天的例外種を一つに畳めば、二本で足る。
少ないことは、必ずしもこれから進める議論への理解が浅いことと同義ではない。
「ええと、新婚早々、単身で赴任されるということですか?」
この話し合いの前提として、ラヴィの旅への同行があった。
カールやイヨ、カイのところのモンらを始めとする後天的例外種の同行だ。
今整理された立場とは直結しないが、本題に戻ったことで、どうしても差し込んでおきたかったのだろう。
「ばかなのにゃ。あたしはイシュの民にゃ。」
「子が生まれれば、同じ特徴の親たちと家族を作る。メレナが子育てする環境に、カールは不要だ。」
カールが端的に結論を述べ、イヨが理由を述べた。
王都への旅に同行した俺には、その役割の分かれ方が妙に馴染んで見えた。
「教国の使者にも、その点は深く聞かれたでありんす。祈りの歌にもあるように、半身魔物ゆえのイシュの民の文化でござりんす。」
魔物がほぼ現存していないため、印象としては獣人とした方が良いだろう。
それでも、半分魔物と置くことは双方ともに根強い。
人間は、排他的に扱うため。
イシュの民は、愛の伝承を守るため。
繋がりを、断つためと育むためでありながら、同じ置き方をしていることが、何とも皮肉に思えるのだった。




