引き出物
「つまり、ラヴィは売り込みに失敗しましたが、その名は使えるので、カールとイヨが肩代わりするということでしょうか。」
エレガンが口を開いた。
進行役をしないエレガンが、まとめだけを口にして終わる、ということはないだろう。
「では、私たちはなぜ、集められたのでしょう。」
「祝わせた礼にゃ。」
「なるほど。一旦、続きをお聞かせください。」
あまりにも端的な答えに、おそらくカールの意図を正確に掴めた者はいないのではないか。
イヨを見ても、口を開く様子はない。
「世界中から金を引き出してやるにゃ。金は全部、お前たち外壁の街の人間にやるにゃ。」
「……世界中がここ、ガン・イシュに矛先を向けている今、怒れるイシュの民の価値は高いぜ。」
価格交渉などなく、全部。
人間同士の交渉ではあり得ない提示だ。
怒れるイシュの民の価値を作ったウェルトが、世界で今、後天的例外種の需要が高い理由を述べる。
「あたしたちは、王国を離れたにゃ。」
「そうだな。女王たる私が贈り、リルが迎え入れた。カールを含め、王国から招かれたイシュの民は皆、今やガン・イシュの民である。」
ガン・イシュ国では、目的が決まれば、皆が自発的に動く。
それが成り立つのは、譲り合いの喧嘩という文化が育つような民だからだ。
ここに建てられた大量の石の家は、結婚式の報が入ってから大量に建てられたという。
教国から戻ったリルも、流石に驚いたと言っていた。
「なるほど。ここはもう、外交の場でしたか。」
カールは、自主的に外交をしているとでもいうのか。
求める落とし所が常軌を逸しているが。
「祝ったやつにはご馳走様にゃ。いただきますするといいにゃ。」
「ほっほっほ。カール君、そのとおり!でも成果のない今はまだ、お粗末様だよねぇ。」
金周りに聡いネロだからなのか、いただきますとご馳走様を広めようとしているネロだからなのか。
いずれにしても、ネロだからこその切り返しだった。
「世界中に高く売るのは確定にゃ。それより、祝わせた中から売るのにゃ。カイのとこのモンも多いにゃ。」
「だから我々を集めたと?」
俺はカールらしいと思って聞いていられた。
だが記録に徹していたオクパトスが、つい、といった様子で口に出した。
ネロはああ言うが、金の話は終わりで次、となっていいとは思えない金額が見込める話なのだ。
軽く見積もっても、対等とは程遠い。
「高く売るのに金はやるって、どういうことだよ。じゃあ何のために売るんだ?」
「必要ないにゃ。」
「同胞を、怒れる兎の名で、世界中に、高く売る。それは確定事項だ。その上で、団長が担うべきではないものまで、その両肩に乗せることはない、という話だ。」
リオナたちが始めた作戦を、カールたちがどう繋ぐか。
輪のように並ぶ席が、まるでこの話し合いを象徴するかのようだった。
「お前らはみんなを弔ってくれたにゃ。だから招待したにゃ。祝いの礼はいくらあっても足りんにゃ。」
「せやから高く売るんか。」
「知らんにゃ。あたしはへなちょこ兎とは別に動いてたにゃ。にゃが助けてやれるにゃ。」
何のために売るのかという情報は、必要ないのと同時に、知らないと言う。
それでも助けてやれる方法が自分にあるなら、手を貸す。
なるほど、実にカールらしく、イシュの民らしい。
「俺はうちのモンらを自分の所有物と思とるわけやない。せやけど、売られたモンらはどないなるんや。」
「モンらとも全員話したにゃ。」
「そうなんか。」
「カイは一緒に来るかにゃ。」
「なるほど。もしかしてそれも、集められた理由の一つということですか。」
レンやカイが差し込んだカールとのやり取りを聞いて、オクパトスは疑問の答えを得たようだ。
「カイは、王国辺境伯領の四大貴族家の一つ、穀物家の代表だ。国交樹立が成ったのだ。外交として同伴させる筋は可能だと思うが、どうだ?」
俺は辺境伯領の特使として、エレガンたちに問い掛けた。
「それは無理にゃ。ラヴィは謀反の旗印にするにゃ。」
皆が考え始める素振りを見せるなか、カールは即答したみせた。
これまでは、王国から売るという形だったが、国交樹立の証として、今やガン・イシュの民だ。
ガン・イシュへ攻め込むために、ガン・イシュから買うという筋は、確かに座りが悪い。
「はっはっは!魔王の側近と噂される怒れる兎を、魔王から離反させるか。となると後天的例外種は、謀反軍ということになるな。」
「今はカイの話にゃ。」
「ドーラの示した筋が使えないとなると、王国は国交樹立を反故にしなければならないでしょうね。」
「カールがカイを追い出さないと言った後に、王国がカイを追い出すというのもな。」
「モンらが納得しとるんやったらええんです。最後に挨拶だけはさせてもらいますけど。」
矢継ぎ早に意見が飛び出す。
カイの話をさっさと終わらせ、カールの意図を引き出したいという意思のあらわれのようだった。
果たして、そう上手くいくかな。
「わかったにゃ。あたしからは以上にゃ。」
それっきり、興味を失ったように大あくびである。
自分の理屈で自由に振る舞っているようで、どこまで見えているのか身震いするように、核心を抉る。
それが、少しの間共に旅をした、カールというやつだ。




