ラ・グラン・フィエスタ
「祝福の席にて申し上げる。我が国は新たなる国の樹立を認め、その門出に友誼をもって応えたい。」
女王陛下は、花婿花嫁へこの佳き日の祝福を贈った。
そのまま祝いの席に集う皆の方へ向き直り、よく通る声でそう告げた。
「その証として、我が国を代表するイシュの民を、ここに伴ってきた。どうか彼らを、国交の始まりを共に祝う隣人として迎えてほしい。」
祝辞にも、国家承認にも、好き勝手に騒いだままだったイシュの民たちが、そのとき初めて、私の方を見た。
「どうやら私よりも、ここではよほど王らしいようだな。はっはっは!」
静まり返った場に、女王陛下の、クローバーの豪快な笑い声が響く。
「改めて願おう。どうか彼らを、この国に迎えてはくれないだろうか。」
ガン・イシュ国の王として、私がすべきことは。
「クローバーは、わざわざ隣人を削って言い直したわ。みんなはどっちがいいかしら?」
みんなは、自分で決められるはずだもの。
◆
「はっはっは!今日は実に佳き日だな!はっはっは!」
上機嫌のクローバーが、俺の方に寄って来る。
王国出身のイシュの民を迎え入れることを、さも当然かのように振る舞ったリル。
その結果、誰がどの家に住むかという話で大盛り上がりになっているのだ。
やれ隣人だ、一緒に住むだ、気が合うから友達、獣の特徴が同じだから家族。
そんな様子を見たクローバーが、セバスとマイヤーと話していた私のところに来たのだ。
「私は王の座を降りるぞ、ドーラ!はっはっは!」
「お戯れを。羽目を外したい気持ちはわかりますが。」
国家承認と国交樹立を為した今、ここでの王としての役割は終わりだ。
しかし、教国の外交官もいるこの場において、迂闊な発言は控えてもらいたいものだ。
「ふふふ。ただのクロっち、爆誕である!はっはっは!」
そう言ったクローバーが、もう一人のクローバーの分まで笑っているように見えた。
「ふっ。これじゃ、どっちがお転婆なんだか。」
「ははは。当時はそれはそれは、本当にもう、手を焼かされましたからな。」
「えらく強調してくれるじゃないか、セバス。」
「あの時一度も怒らなかったことが、それはもう、不思議でなりませんからね。」
「マイヤー、お前もか。願いの魔法がお前たちから消えた今、もうあのようなことはできんな。」
「それは違いますぞ。嫌な思いができなかったわけではありませんからな。」
「嫌な思いを、しなかったのですわ。だからこそ、お仕えして正解だと言えるのです。」
怒れないこと、高い身体能力。
それらがあっての、穏やかな気性だ。
その懐の深さゆえだったのか。
これからを、見てみよう。
◆
晴れの日マジで
祝うしかなくね
一緒にわちゃろ
夜更けまで
イヨが、紫露と橙の舞に合わせて、おかしな節を口ずさむ。
カタリナとファルスの間に立って、二人の腕に絡みながら。
今夜はヤバみ
夜通しテンアゲ
並んでわちゃろ
明けるまで
周りの子どもたちに、鳴り物を配っていたハピィが飛んできて、二段目を重ねる。
色んな音で拍子を取って、振り回されながらもカタリナとファルスは踊る。
子どもたちも、見よう見まねで楽しそうに身体を動かす。
むしろこっから
日の出で盛って
みんなでわちゃろ
昇るまで
船の中で瑠璃一派として仕込まれたクローバーが、当たり前のように三段目を積む。
皆、あまりにも自然体で分かち合っている。
妙な品位を感じたのは俺だけか。
クローバーが、にやりと笑って俺を指した。
お囃子になってきた鳴り物の音だけが響く。
イシュの民が譲り、俺の周りに輪ができる。
ハピィが翼で合図を寄越す。
何度もここだと促すように。
唄や踊れや
鳥兎騒々
割れても末に
会わんとぞ
どうだ、節には合わせた。
瑠璃は呑みきれなんだが、受け止めた。
唄や踊れや鳥兎騒々!
割れても末に会わんとぞ!
一段の空白の後、まるで示し合わせたように合唱が揃う。
振り付けらしくもまとまりが見えだした。
「はいっ、今の百点!みんな最高!」
そんな合いの手を入れながら、ハピィが調子を合わせる。
イヨが再び最初の段を歌い、ハピィが継いで、クローバーが繋げる。
最後の段をみんなで合わせる。
なんだかちぐはぐな踊り節が出来上がってしまった。
だが、それがかえってイシュの民の懐の深さを思わせた。
「ふぅ〜〜っ、や~り切った、やり切った!いやぁ〜感動したわ〜みんなに!」
何度目かの繰り返しの後、突然、ハピィが止める。
見ると、カタリナとファルスがへたり込んでいた。
「ねぇハピィ姉ちゃん、お歌もう一回!」
「えー?もっかい?……んー、じゃあ特別サービス!なんてったって、ハピィ姉さんだからね!」
紫露が、舞を変えた。
ゆったりと、流れる水のように。
「イシュ」それは原初の魔物
人が変わったように、ハピィが歌い出す。
愛を育み願いを唱える
「イシュの民」よ「人であれ」
ここに来てから、何度か耳にした歌。
リルとリオナが、二人で歌っていた歌。
彼の地に向けて夜明けを祈ろう
ここ、ガン・イシュを目指した者たちが、紡いだ歌だ。
祝いの席に、ハピィの歌と、紫露たちの舞が終わりを告げる。
「イシュ」それは原初の魔物
愛を育み願いを唱える
「イシュの民」よ「人であれ」
彼の地に向けて夜明けを祈ろう




