ボナミ
「なんか、近寄り難くなっちまったな。」
「せやな。魔王とはいえ、一国の王やからな。」
へたれた自分を慰めるように、強い言葉で言い訳を並べる男たち。
「リルはリルだよ。そりゃあたしは、瑠璃だった頃の少しの間しか知らなかったけどさ。今のリルを遠ざける理由にはならないよ。」
ラヴィにこんな風に言われるということは、ラヴィよりこの男どもはへなちょこだってことだわ。
まあ、私はラヴィをへなちょこだなんて思わないけど。
間の抜けたところはあるけどね。
「何か勘違いしているようだけど、瑠璃以前のリルからも、距離を置かれていたわよ、あなたたちは。」
「うっ。確かに。」
「リルに突撃しかしいひんかった、若かりし頃の苦い記憶っ。めっっっちゃ嫌われてたもんなぁ……ううっ、お痛わしや。」
「うるせぇ。聞いたことあるような台詞で煽ってんじゃねぇよ。」
そう言ったレンは、持っていた飲み物を一気に呷った。
「これから巻き返すんじゃないのかい?ってメレナに言われちまうな。うし!行くか!」
カイがふざけて、レンが腹をくくる。
いつもの調子だけど、ちゃんと前に踏み出そうとしている。
あなたたちはいつだって口先だけね。
そう言わずに済んだのは、ひとえに成長の証だろう。
◆
「ここまで来たのね。」
「そりゃあな。」
長年追い掛けてきたからな。
とは言わないあたり、もどかしい。
「それで、どうやって帰るつもりかしら?ルネには頼んであげないわよ?」
「ははは。その感じ、あん時のままだな。」
「そうね、だって私だもの。そうでしょ?」
「そうだな。」
そこに惚れてんだ。
とは言わないあたり、以下同文。
しばし、沈黙が流れる。
「どない?」
「静かに!ここからが面白いんだから!」
「俺の親友をそんな!完全に同意やわ。」
「えぇ……酷くない?」
ラヴィが一番正しい。
それは分かっている。
だけど、正しいからって正しいわけじゃないのよ。
「なんか、とんでもない理屈をこねてる顔してる。」
「あら、流石ね。そのとおりよ。」
「しっ!リルが口を開くぞ!」
リルは飲み物に口を付けて、ひと飲み。
言うべきでない言葉を、一緒に飲み込むように。
「ガン・イシュは何も、国交を途絶しているわけではないわ。自力で行き来できるなら、いつだって大歓迎。少なくともそれは、みんなの合意の上よ。」
私がガン・イシュに到着したとき、リルが教国に何度目かの訪問をしているところだと聞いた。
その方法に心当たりがある私は、リルがそれを習得したのだと解釈した。
今の言葉でそれは、確信に変わった。
リルは、あの東の断崖絶壁でさえ、飛行具で行き来してみせるということだ。
「私は、小島の方にしか降りれないのにな。」
「あー、そういうこと。凄いね、リルは。」
ラヴィも理解したようだ。
常に風下になると言っても過言ではない東側寄りは、気流が乱れて上手く飛べないのだ。
ラスカノたちの技術に全幅の信頼を寄せてくれていなければ、挑戦しようとさえ思わないはずだ。
やっぱり、リルはリルなのだ。
私にはそれが、たまらなく嬉しかった。
「レンは、ここでずっとリルのヒモにでもなるつもりなの?」
きっとこれは、リルが飲み込んだ言葉だろう。
そんな気がした。
だけど、嬉しさのあまりつい、まだリルを譲りたくないと思ってしまったのだ。
私は、両手を左右いっぱいに広げて、こんくらいを示した。
「ふふ。リオナはガン・イシュに残ってくれるみたいね。」
「もちろん。だってもう、あの街にやり残しはないもの。」
ラヴィの作戦も、ガン・イシュから再出発だ。
次はカールの全面協力もあるし、大丈夫。
「それどころか、王国内から全部集まったんじゃない?」
「そうなの?さっきからメレナの旦那さんが祝わせに回っているけれど、顔が広いのね。外縁の森の王だったりするのかしら。」
「カールは気まぐれなだけだよ。我が物顔で現れて、みんな知り合いにしちゃうのさ。」
カールが群れの長だなんて、柄じゃないわ。
今では街の市場でさえ、当たり前のように餌場にしている。
「あっちこっちでお礼言われてたぞ?」
これはほんとにそう。
カールはただ顔が広いだけではなくて、感謝されるような行いもしているようなのだ。
「そんなの関係ないにゃ。祝えにゃ!って言うてたわ。どっかの誰かさんと違うて、なんやめっちゃかっこええわ〜。」
遠慮して譲りがちなイシュの民にとって、カールの何が感謝に値したのかなんて、言うまでもないだろう。
その点、ガン・イシュには今、こんくらいを示すという対策が敷かれている。
「カールも凄いけど、リルも凄いって言っておくわ。」
「ふふふ。ありがとう。でも私はみんなのお話を聞くだけよ。今までも、これからもね。」
リルの腕に自分を絡めながら称賛したら、そんな風に答えたリル。
それができることが凄いんだけど。
「当然って言わねーんだな。」
「当然よ。だって私だもの。そうでしょ?」
「もうそれ、ネタになってもてるやん。」
レンと違って、カイは大して成長していないのかしら。
「いつだって口先だけのカイとは違うけどね。リルはちゃんと、みんなを尊重してくれてるよ。」
「だめじゃない、ラヴィ。せっかく思ってても口にしなかったのに!」
「おい、被告人。茶化してっとまたイヨに斬られるぞ。」
「いやや、怖い!リル、すまんかった!」
「一体、何があったのよ……本気のやつじゃない、これ。」
「じゃあ今夜、リルの部屋で話そうよ!」
「ラヴィ。それ、最高だわ!」
「そうね、積もる話もたくさんあるし、メレナも誘ってお話しましょう。」
「ハピィは?」
「ハピィもよ。」
「ルネは?」
「ルネは淑女の部屋に、夜中にお邪魔したりしないわ。」
「あとは……」
「気持ちはわかるけれど、今日はそれくらいにしなさいな。」
ラヴィが次々と候補を上げそうになり、リルがそれを制す。
前と少し関係性が違うけど、それでも変わらないものがそこにはあるような気がした。




