第42話 取り戻した手紙
なんだか全部、夢みたいだった。
私とヴィルの二人で旧都へ向かう馬車に乗っているなんて。
「これは現実なのかしら?」
彼は私の言葉に顔を上げた。驚いたような群青の瞳。この色がずっと恋しかった。
「ヴィル、私の手紙は届いていた?」
「御礼状とレースの栞の入った手紙が一通、月見草の栞の手紙が一通、これはウィルマー君から直接受け取ったものですが……。あと、旧都での仕事についての手紙が一通、それが私の受け取った全てです」
すらすらとヴィルは諳んじた。
記憶力がいいのは知っていたけれど、それだけでは説明しきれない情熱を感じて私は顔を赤らめた。
「あなたからの手紙が届いていなかったなんて気がついていなかったわ……さっきマーサが渡したのがそうなの?」
彼は頷いて胸元から封筒を取り出した。
「一通は開封されていますね。人の私信を盗み見するとは……あなたの姉上とはいえ許せませんね」
「私も許せないわ」
私の厳しい口調に彼は意外そうに片眉を上げた。
――彼が私に送ってくれたものなのに。
勝手に見られたのも、私より先に読まれたのも、私から隠していたのも、すべてが悔しかった。
「ねえ、読ませて?」
その言葉にヴィルの瞳が揺らいだ。
「私への手紙なのに、読んじゃいけないの?」
「いえ、なかなか返事が来なかったものですから、この手紙は少し、その……」
「怒っている文章になった?」
「怒ってはいないのですが……ちょっと激情に駆られて書いた箇所があるので、それを今あなたが読んだらどう思うか……」
「悲しくなる?」
「いえ……私がかなり恥ずかしいかもしれません……」
彼は口元に手を当てて目を逸らした。その手に指輪が見えた。
「いつも落ちついているあなたが恥ずかしくなるような内容なの? それは絶対に読みたいわね」
「いや、ちょっと待ってください。確認させてください」
二通の手紙の内、片方を選ぶと彼は自ら封を開けて目を走らせた。
私はじれったくなって手紙に手を伸ばした。
「お願い、見せて?」
「ちょっとだけ待ってください」
手紙に触れかけた私の手を彼が握って止めた。
私たちはお互いに見つめ合った。
「……すみません」彼はゆっくりと私の手を離した。
「いえ、私こそ」私もそっと手を引いた。
「あなたも指輪してるのね」彼の手を見ながら私は言った。
「……男が指輪をしても構わないのでは?」
そういうつもりで言ったんじゃないわ、と言いかけて私は気がついた。
拗ねてるんじゃなくて、彼の照れ隠しなんだ。
「そうね、お揃いみたいで嬉しいわ」
私が自分の手の指輪を見せて微笑むと、彼は少し顔を赤らめて目を伏せた。




