第36話 初めての一人旅計画
荷物を送ってもらったときに受け取った手紙以降、ヴィルから便りはなかった。彼は忙しいのだし私と文通している暇なんてないのかもしれない。そして、そんな義理も彼にはないのだった。
ビリーが私からの手紙を渡し忘れたんじゃないかと疑ったけど、ちゃんと本人に渡したと彼は言っていた。
「クレアのこと、上流階級の令嬢みたいに対応してくれてさ、プレゼントも丁寧に包装するよう指示してくれたんだ。あの人すごいな。俺、ほんと尊敬するわ」
ビリーがそう言うのを聞いた私は誇らしいような、ビリーと一緒に彼を称賛したいような、そんな気持ちでいっぱいだった。彼は誰にでも優しくて思いやりがある。あんな人、どこにもいない。
『私の側にいる限り、あなたが不条理に傷つけられるのを見過ごしたりしません。
ですが、あなたが私の側を自分の意志で離れたときは、どうしようもありません。
あなたが自分で選んでくだされば、私は力の限りお手伝いします』
彼に失礼な態度をとる父を私は止められなかった。黙って従ったのは、その無礼を許したようなものだ。何か言い返そうとしたのに、小さいときから私の言うことは否定されてきたから。今まで家族を言い負かせた試しなどなくて、身体が固まって何もできなかった。
あのとき、彼を救いたいと思って私は去ったけれど、その判断は間違っていたのかもしれない。
彼は私を支えようとしてくれたのに、私は逃げてしまって戦えなかった。私は自分から彼の元を離れてしまった。
だから彼は返事をくれないのだろうか。
ちゃんと抵抗できなかった私に、彼は幻滅したのかもしれない。
軽蔑されても仕方ない。必死でもっと頑張ればよかった。
それが、あんなにも心を尽くしてくれた彼への恩返しになったかもしれないのに。
馬車に乗った私を見つめる彼の瞳と、密やかに手渡された指輪。
そこには希望があるように感じられた。
もう一度、彼に会いたい。話したい。
私が自分で立ちたいと言ったら、彼は手助けしてくれるだろうか。
もう一通だけ手紙を書いてみて、返事がなかったら旧都に行ってみよう。乗合馬車で行けるはずだ。ビリーに教えてもらえば良い。
旧都にさえたどり着ければ、彼のもとに行ければ。
――きっと何かが、変わる気がする。




