第34話 ビリーの助言
「これ。アリーから預かってきた」
俺がアリーからの手紙を差し出すと、あいつは片眉を上げてそれを受け取った。器用なもんだな。
「……君が、これを?」
「あいつは郵便も自由に出せないんだって。代わりに出してくれって頼まれたんだけど、旧都に行くつもりだったから俺が直接届けることになったんだ。こんなに信頼できる郵便屋はいないだろ」
「確かにそうだな。ありがとう」
目を伏せたあいつの表情に影が差した。
「レクシーは……変わりないか?」
「まあまあってとこかな。あのクソ親父は相変わらずだけど」
「そうか……」
「あんたのおかげで旧都にいる間は楽しかったみたいだよ。美術館だの植物園だの、あんたと一緒に行った所のことばっか聞かされたもんな。まあ、それもあって俺たちも旧都に遊びに行ってみるかってことになったんだけど」
「それはよかった」
俺たちが旧都を観光するきっかけになったことか? いや、アリーが楽しそうに話してたことだろうな。
「手紙書けばいいんじゃん、元気かって。本人に聞けばいいのに」俺が率直に言うとあいつは眉を下げて微笑んだ。
「大人は相手のことを配慮して行動するものだよ」
「それで動けないの? 頭でっかちだな。時には考えずに動くのも大事だと思うけど」
あいつはまじまじと俺の顔を見返した。
「……なんだよ」
「驚いたな。アドバイスをしたつもりが教えられたのは私の方だったか」
俺はふと思いついて、言った。
「ねえ、あんたさ、もしかしてアリーに指輪やった?」
「……なぜそう思うんだ?」
「アリーがつけてたから。あいつ、自由になる金なんてほとんどないはずだから、自分で買えるとは思えなくて」
「……」
「『それ、どうしたんだ?』って聞いたら今のあんたみたいに黙り込んでたな。アリーの顔は赤くなってたけど……さすが、商売人は顔に出さないね」
あいつは表情を変えずに瞬きしただけだった。
赤面するような台詞は顔色も変えずと言うくせに、アリーに関することは表情が読める気がする。
他の髪飾りやドレスを見ていたクレアがやってきた。
「香水の小さなサンプルまでいただきました。カエリムさん、お忙しいはずなのに私たちのためにありがとうございました」
あいつはクレアに笑顔を向けた。
「このような素敵な女性を伴えて、彼は幸せ者ですね」
「俺のこと下げてねーか……?」
微笑んだままあいつは何も言わずにガラスドアを俺たちのために開けた。クレアの後に続いて店を出るとき、俺にだけ聞こえるような小声であいつが囁いた。
「”お前はいい男だ”なんて褒めるのは無粋だと分からないのか?」
振り向くと、あいつは俺たちに向かってにこやかに優雅な会釈をするのだった。
「すごいね。ビリーがあんな立派な人と知り合いだなんて知らなかった。全然お高く止まってない親切な人だったね。それにお店も素敵だったし。連れてきてくれてありがとう、ビリー」
「うん……」
悔しいけど、なんか負けた感じがする……。




