第29話 想いを込めたプレゼント
ヴィルへのお礼の手紙の他に何か贈りたかった。でも田舎では大したものが買えないし、そもそも私の僅かなお小遣いで買えるものは限られていた。それに、あんなに上質で素敵なものを見慣れている彼に中途半端なものを贈るのは気後れした。
――あの月見草を押し花にして、栞にしたらどうかしら。
庭に出て月見草を見に行ったが、もうほとんど咲いてなかった。
彼がお別れを言いに来たときからかなり経っていた。あれで彼と私のつながりは絶たれたと思っていたのに、思いがけない形で縁は続いた。私はほんの少し咲いている月見草を全部取って、自分の部屋へ急いだ。
なるべく綺麗なものを選り分ける。乾燥させるために吸い取り紙に挟んで、はたと手が止まった。
重しがないわ。
書斎を覗くと父の姿はなかった。私は急いで、なくなっても目立たなそうでなおかつ分厚い本を探した。
百科事典の最後の巻。これがいいわ。途中で欠けていると目立つけど、最終巻ならバレないでしょう。
私はそれを手に取ると、いそいそと書斎から出て自室に戻った。幸い誰にも見られることはなかった。
押し花って乾ききるまでに日数がかかるわよね。
お礼の手紙は早く送りたい。とりあえず先に手紙を送って、月見草の押し花の栞が無事にできたら、また手紙を送ろう。今回はお礼だから堂々と送れるけど、次は父に嫌な顔をされるだろうか。
いいわ、代金を渡してビリーに頼もう。郵便代くらいは賄える。
彼から手紙を送ってもらえたら、その返事だからって言って堂々と手紙を出してもいいのよね。彼は父にちゃんと許可を取ってくれたもの。別れ際に彼がそう言い出してくれてよかった。私は今更ながら彼の思慮の深さに気がつかされた。父が突然現れたときも慌てずに落ちついて対応していたし、本当に頭の回る人だ。
押し花は間に合わないけれど、今回はなにか他のもので作った栞を送ろう。彼は読書が好きだから、栞ならいくつあってもいいはず。何色が好きかな。いつも服は落ちついた色合いが多かった。濃紺とか深緑とか焦げ茶とか。
そうだ、私、レースが編めるわ。レースは高価だから自分で編めたらいいなと思って、それだけは暇な時にやっていた。歌も楽器演奏もろくに身につかなかったけれど、これだけはちょっとしたものねって母も言ってくれたもの。
ヴィルは「レクシー、あなたはレース編みが上手なんですね」って驚くかしら。「こんなに根気強く取り組むなんて素晴らしいですね」と言ってくれそうだ。彼は出来栄えそのものより、心を褒める人だろうから。
私はその日の夜、レースを懸命に編んだ。出来上がった栞を私は満足げに眺めた。
彼の瞳を思い起こさせる紺色のリボンに、白い繊細な糸のレース編みで縁取られた栞。
――うん、なかなかのものじゃない?
ヴィルの目は肥えているだろうから不安がないわけではない。でも、彼は思いを込めて作られたものを稚拙だなどと侮らずに、かえって価値があると感じてくれるはずだと思った。
ふいに、彼がビリーに言っていたことを思い出した。
『”自分があげたいもの”ではなくて、”相手が欲しいもの”を選ぶんだ』
私、ちゃんと彼の言ったことを守れているかしら。
目を閉じて、彼の言っていたことを一語残らず思い出そうとした。
『よく観察しろ。何が好きなのか、何に惹かれるのか』
これは大丈夫なはず。
『愛しているなら、それくらい造作もないことだろう。自然に目で追ってしまうはずだ』
――愛しているなら。
私はどきりとして目を開けた。
私、まるで彼のこと……愛してる、みたい……?
いえ、違うと思う。これは感謝と尊敬の気持ち。
彼のことを目で追っていたかしら。分からない。
彼がいると不思議と目が吸い寄せられてしまうのは確かだった。だって、彼を見ていると快い感覚に包まれたから。
でも、私に想われても彼は困るだけじゃない? 父はあんなに失礼だし、私に関わって彼に良いことなんて何一つなかった。彼にとって嫌なことしか私は引き起こしていない。
お茶をしたり美術館へ行ったり、私はすごく楽しかったけれど彼はどうだったのだろう? 嫌がられてはいないと思う。だが、彼自身も言っていたではないか。『特別好きなことも、嫌なこともないんです』って。優しくて思いやり深いから嫌がったりしないわ。彼も少しは楽しかったかな? そうだといいんだけど。
自信なんてこれっぽっちもなかった。




