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物語のような恋をあなたと 〜妖精は作家志望の現実家に愛される〜  作者: 井ノ上 杏
第三章

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第28話 本当の強さ

 私達が帰った翌日、カエリム商会から乳母のマーサと荷物が送り届けられてきた。

マーサがヴィルから預かった手紙を私に手渡した。私は笑みがこぼれるのを抑えきれなかった。彼は言ったことを本当に実現してくれる。

手紙は私の体調を気遣う挨拶から始まり「荷物を送ります。服は記念と思ってお受け取りください」と書いてあった。指輪のことには触れてなかった。


 思いやりに溢れた文面にどこか芯を感じさせる整った筆跡まで、彼の内面を表しているかのようだった。届いた沢山の荷物を見て驚いたエヴァンジェリンが私の部屋にまで見に来た。


「こんなに上等な服……高いんじゃないの? 勝手に作ってもらうなんて」

「いただいたのよ。展示品だけどよかったらって」

「そうなの? 長女は私なのに。私へのものもあるんじゃないの?」

エヴァンジェリンは服を自身に当てて鏡を見た。

「ねえ、勝手に触らないで。大切なものなの」

「丈や袖が長すぎて、私には着られないわ」

私の言う事には耳も貸さずに、彼女は不満げに言った。

私はエヴァンジェリンによって適当に椅子に引っ掛けられた服をそっと手に取った。


「展示品なんでしょう? そんな後生大事にしなくても……」

「私にとっては大事なの」

「あら、そう。いいわ、私は私のために仕立ててもらったドレスがあるもの」


 エヴァンジェリンが嫉妬しないように展示品と強調したけれど、私に合わせてサイズも調整してくれた。

特注でなくても、これは私だけのものだ。


「少し頭が痛いから、一人にして」

「そう、分かったわ」

やっとエヴァンジェリンは出ていった。


 エヴァンジェリンはわがままなところはあるけど、誰にも怒らない穏やかな姉なんだと思っていた。だが、ヴィルの家族を知った今は、ただ自分のことばかりで他人に関心がない人物のように思えた。それどころか、無神経で思いやりがないように感じられた。


 私、性格悪いのかしら。辛辣な考え方になった?

――それか、真実が見えるようになったのか。


 心は疑問を抱いている。家族の皆は、お前が間違っていると言う。一体どちらが正しいの?

彼なら何と言うだろう。よく考えて自分で判断してください、そう言うかも。でも、私と同じようにきっと彼も感じる気がした。おおっぴらにではなくても、「私もそう思います」と言ってくれそうだと思った。それか、どこか愁いを帯びた優しい目でさりげなく賛同の意を示してくれるか。


 彼の手紙をもう一度読んだ。文字を指でなぞる。昨日か今朝か分からないけれど、この紙を彼も触れていたのだろう。

あんなに毎日一緒に過ごしていたなんて、なんだか信じられない。私ったら、ただ楽しんでしまって。だって、こんなに突然終わると思っていなかったから。

お礼の手紙を書こう。私の心からの感謝を伝えよう。私にできることはそれくらいしかなかった。


 夕食の席で私は父に聞いた。

「お父様、カエリム氏にお礼のお手紙を書くでしょう?」

「私が? イザベラ、お前が書いてくれ」

「分かりました」

「お母様、そのお手紙に私のお礼状を入れても構わないでしょう?」

「ええ、いいわよ」

「お母様が書き終わったら私に渡してくださる? 郵便の手配は私がしますから」

「あら、助かるわ」

こうでもしないと母は私の手紙を入れ忘れかねなかった。家族が信用できないなんて、つくづく嫌になった。


 彼のお気に入りの図書館に連れて行ってくれると話していたのに。

きっと素敵な所だろう。彼が好きな所なんだから、そうに決まってる。

彼と一緒に行きたかった。きっと嬉しそうに案内してくれただろうに。

自分だけの秘密を明かすように、大切なものを分かち合ってくれただろう。


 父は威厳があるんだと思ってた。あれが強さなんだと。

ヴィルは誰に対しても丁寧だ。いつだって紳士的な対応を崩さない。人が見ていても、いなくても。誰に見られるからと理由ではなく、彼自身のプライドが許さないのだろう。プライドといっても独りよがりのものではなくて、自尊心だ。誰に対しても失礼なことはしたくない、そう思っているのだ。


 父の前では愛想がよくても、本当は嫌っていたり裏で悪しざまに言っている人がいるのは知っている。彼はそんな父にさえ、穏やかに異を唱える。正しくないと思う意見には賛同しないし、ちゃんと反論している。

彼は居丈高に命令したりしない。従業員に対して指示するけれど、決して強権的じゃない。彼の人格に皆が尊敬の念を抱いている。父のように失礼な態度を取る人もたまにいるだろうけど、彼はしなやかにかわすだろう。彼の精神は誰も傷つけられない。


 舐められないように、とよく父は言う。その発想が不思議に思えた。それじゃ、侮られるのを不必要に怖がっているみたいだ。まるで、本当は怖いのに「俺は強いんだ」と威嚇している猫のよう。

ヴィルは全然恐れていない。侮辱されても、そんなことを言う人の方がおかしく見える。柔和で優雅な仕草や落ちついた表情、そして簡単に動揺しない精神。一見柔らかいのに、芯は強い。


――本当に強いのは、どちらなんだろう?

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