第27話 小さな指輪
リンドレイ子爵家の馬車が去っていった。
私は知らず、奥歯を噛み締めた。
「……くそっ……」堪えきれず悪態が漏れた。
様子を見に外へ出て来た従業員が驚いたように私を見た。
「すまない。こんなに胸糞悪いのは人生初だったものでね」
「……先程、若旦那様がお持ちになられた指輪の処理はどのようにいたしますか」
「私が支払う。時間の空いた時に精算してくれ。急に持ち出して悪かったな」
目礼すると従業員は店内へ戻った。
私はレクシーの去っていった方向を見た。馬車はもう姿も形もなかった。
天を仰いで、眉根を寄せて目を閉じる。
――元の木阿弥だ。
何か彼女の心の支えになるようなものを渡したかった。
私が側にいられないから。
それを見て自身の本当の心や望みを思い出してほしかった。
私と一緒に過ごすとき、そこに本来の彼女が居るように感じたんだ。
彼女にあの感覚を忘れないで欲しい。
嘆息をついて私は店の中へ入った。裏へ回った私に先程の従業員が帳簿を示した。
「こちらですね」
内容を確認して、その時に気がついた。
渡した指輪のサイズが思ったより小さめだったな。
何度か手を取ったことがあるので、彼女の指のサイズはおおよそ分かっていた。本来なら彼女に選ばせてあげたかったが、とっさのことであれが精一杯だった。大きい宝石やきらびやかなものはすぐにあの父親に見つかって、一体どうやって得たのかと彼女が咎められてしまうだろう。それか強欲な姉に奪われてしまうか。かと言って、彼女の好みに合わないものを渡しては本末転倒だと思って瞬間的に判断したのだった。
まあ、小指なら入るだろう。万が一入らなかったら、ネックレスに通してくれたらいいのだが。
懐から小切手を出して金額を記入したが、私はふいに思い立ってその数字に線を引いて書き潰した。
「これと同じようなデザインで、石がついていない指輪はあったか?」
「いえ、こちらに似たようなデザインのものはないようです」
「工房に連絡して、もう少し控えめなデザインで似たものを作るように頼んでくれ。石はつけなくていい。その代金も私につけてくれ。後でまとめて支払うから」
「かしこまりました。サイズはいかがいたしましょう」
私は指輪のサイズを測るための器具で自分の小指のサイズを確認した。
「これで頼む」
「……かしこまりました」
信頼している従業員なだけあって、何も言わなかった。かすかに口元が微笑んでいた気がするが、咎める気にもならなかった。
――愚かしく見えてもいいじゃないか。恋をしている者は大抵そうだ。




