第19話 自分の身体に合った服
翌日、朝食の後すぐにカエリム夫人が私の部屋へやってきた。彼女は後ろにお針子を連れていて、そのお針子はとても素敵な訪問着を持ってきていた。
「展示していたものなのですが、よろしければ……。アレックス様に合わせてサイズは調整いたしますので」
「どうぞレクシーとお呼びになって。でも、本当にこんな素敵な服をいいんでしょうか?」
「ええ、もちろん」カエリム夫人は微笑んだ。
私が試着すると「それでは、失礼しますね」と彼女の目がきりりと引き締まった。あちこち布地を摘んだりピンで留めたりして、あっという間に採寸が終わった。
「すぐに取り掛かりますので」そういうなり彼女とお針子は部屋を出ていった。
すぐに取り掛かるって……まさか午後の外出には間に合わないわよね?
そのまさかだった。
午後の早い時間に、カエリム夫人とヴィルがサイズ調整の終わった服を部屋に届けにきてくれた。
「もう出来上がったの? 信じられない……」
驚きをあらわにする私に、夫人が誇らしげに胸を張って答えた。
「我が家のお針子にかかれば朝飯前……昼飯前ですわ」
彼女の言い方が可笑しくて私は声を立てて笑った。
早速マーサに手伝ってもらって衝立の向こうで着替えた私は、姿見に写った自分の姿をまじまじと見つめた。
「わあ……」思わず感嘆の声が漏れた。着替えている間、廊下で待ってくれていたヴィルがマーサに促されて部屋の中へ入ってきた。
私の身体にぴったりだし、こんなに凝ったデザインの流行の服なんてエヴェンジェリンだって持っていないかもしれない。
すごいわ、苦しくない。窮屈じゃない。
これが自分に合っている服なんだ。
背中に羽が生えたみたいな、軽やかな気分。
どこかへ行きたくなっちゃう。
私は笑って、腕を広げてくるくる回ってみた。マーサが「まあ、お嬢様……」と小声で止めようとして、夫人は子爵令嬢らしからぬ私の振る舞いにかすかに目を見開いた。ヴィルは驚いた様子もなく優しく口角を上げた。
足元がふらついて、とっさにヴィルが私の腕を掴んで支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
心配するヴィルに私は「調子に乗って目が回ってしまったわ」と笑いかけた。
嬉しくて、楽しくて、笑顔が止められない。
ずっと笑っていたら、変な子爵令嬢って思われてしまうわ。
もう思われているかもしれないけれど。
でも、いいの。
どうせ私は型破りなんだから、いっそ”幸せそうな変な子爵令嬢”でいいじゃない。
カエリム夫人とマーサは私たちの姿を穏やかに見つめていた。




