第18話 ヴィリバルトの家族
その日の夕食の席でヴィルの家族に顔を合わせた。彼には弟が二人いるらしく、その内一人は不在とのことだった。
ご家族は私のことをどう思うだろう。母親であるカエリム夫人にはもう会ったけれど、全員が彼のように優しいとは限らない。彼を愛しているがゆえに、私に苛立ちを感じても無理はないように思えた。私はせめて感謝を丁寧に伝えようと心がけた。
「この度はご面倒をおかけしましたのに、このように温かく迎えてくださって……心より感謝申し上げます」
ヴィルの父親であるカエリム氏は少し微笑んで会釈を返した。カエリム夫人は「そちらへ伺った際にはヴィリバルトがお世話になったんですもの、少しでも恩返しできれば幸いですわ。どうかお気になさらず」と優しく言った。
ヴィルの末弟だというレイフォードは、少年と若者の間といった感じのとても綺麗な顔をした銀髪の男の子だった。だが、その無表情さも相まってまるで等身大の人形のように思えた。
――見た目は全然ヴィルと似てないのね。でも、澄ましたような上品な雰囲気がちょっと似てるわ。
会話の内容は最近の旧都での流行や新しくできた店だとか、私があまり答えなくてもいいような話題だった。もし私の田舎や家族について聞いたら、家族は今どうしているのか、なぜ私を一人ぼっちでここへ置いていったのかという話にどうしてもなってしまうからだろう。
それまで黙っていたレイフォードが突然口を開いた。
「本当に貴族なんですか、ずいぶんまともな普通の人に見えますけど」
カエリム夫人が咳き込んだ。カエリム氏は瞬きを一回しただけだった。
ヴィルが慌てたように言った。
「レクシー、失礼しました。レイフォードは思ったことをそのまま言うので……決して悪気はないんですが」
私は飲み物に口をつけながら返した。
「褒めてくださったのではなくて? あら、とても美味しい果実酒だわ。何の果物かしら」
「そのつもりですけど」レイフォードは家族の動揺もどこ吹く風といった様子だった。
「レイ、子爵令嬢にその言い方は……」
ヴィルは弟をたしなめようとしたが、私はレイフォードの方を向いてにこやかに言った。
「レイフォードさんは貴族とか関係なく、人として話してくださったのよね?」
「そうです。逆に、人以外の何なんですか」彼は不思議そうに私を見つめて言った。
レイフォードは無愛想というより、ものすごく正直な人なんだろう。
今度はヴィルに向かって、私はからかうように言った。
「あなたも前に、私の姉のエヴァンジェリンのことを『人だと思ってる』っておっしゃったじゃない。兄弟で似てらっしゃるのね」
「それは……」ヴィルが言い淀んだ。
カエリム氏は聞いているのか聞いていないのか分からない態度で、一方のカエリム夫人は戸惑ったように私たちの会話を聞いていた。レイフォードは何事もなかったかのように再び料理を口に運び始めた。
私は屈託なく、ヴィルに尋ねた。
「それで、こちらのお酒は何の果物からできているのかしら?」
まだ普段の調子を取り戻していないヴィルは半ば機械的に答えた。
「……赤すぐりの果実酒を水で割ったものです。あなたは体調が戻られたばかりなので……」
「だから飲みやすいのね。お気遣いありがとう。とても気に入ったわ」
私はにっこりと微笑んだ。
夕食後、ヴィルは私を部屋に送ってくれた。
「先程はレイが……弟のレイフォードが失礼しました」
「いいえ、レイフォードさんは本当に正直な方なのね。むしろ私は好感を持ったわ。……それに私の家族よりずっといいわ。人を見下したり変なプライドから言ったんじゃないもの」
そう言って目を伏せた私を、彼が気遣わしげに見つめた。
「肯定も否定もしづらいわよね、ごめんなさい」私は彼を見上げて微笑んだ。
彼は微笑まなかった。少し眉根を寄せて何か言おうとしたが、思い直したように彼は口元を引き締めた。
「明日、ご気分が良ければ……午後に美術館にでも行きませんか?」
彼と一緒にということだろうか?
私は問いかけるように彼を見つめた。
「もちろん、お嫌でなければの話ですが……」彼は躊躇いがちに付け加えた。
「嫌なわけがないと何度もお伝えしているでしょう?」
「それは……ここでの滞在についてでしたから」
「美術館だって嫌なわけがないわ」
「……では、明日」
「ええ、楽しみにしているわ」
私たちは、部屋の前で別れた。




