第13話 ヴィリバルトとの再会
ついに旧都についた。久々の都会だ。道は舗装された石畳で、街並みが美しくて人も馬車も沢山いる。私は浮き立つ気持ちで馬車から見える光景に目を奪われていた。
翌日、皆でカエリム商会へ行った。お店は新市街の有名な店並びの中にあって、村の商店の何倍もあった。ショーウィンドウに飾られているドレスや帽子は、カタログで見る流行のファッションよりも洗練されていて素敵だった。
なんて立派な建物かしら。高くて見上げていると首が疲れちゃう。
馬車が店の前に着くと、ヴィルがガラスドアを開けて出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。こんなに早くお越しいただけるとは、身に余る光栄に存じます」
お父様が馬車を降りるお母様に手を貸しながら言った。
「妻や娘がどうしても来たいと言ってね」
「それは有り難いお言葉ですね」
彼はエヴァンジェリンが馬車から降りるのに手を貸してやった。
エヴァンジェリンはそのまま彼の腕を取った。
「あなたが案内してくださるでしょう?」
「ええ、もちろん」
彼はお店の中へ引っ張っていこうとするエヴァンジェリンに丁重に応えながら、馬車を降りようとした私を見上げ、エヴァンジェリンに取られた腕とは反対側の手を私に差し出した。手を貸してくれた彼に私は微笑み返した。
「お久しぶりですね」彼が言った。
「ええ」
そんなに経っていないはずなのに、実際よりもっと長い間会っていなかったように感じられた。でも彼の顔を見たら、彼と話したことや一緒に過ごした時が鮮やかに蘇ってきた。
さすがに彼の両腕にエヴァンジェリンと私がぶら下げるわけにはいかず、私は彼の手のひらに載せた自分の手をそっと離した。
彼は私に視線を残したまま「どうぞ、こちらへ」と声をかけた。
「これがいいわ」
エヴァンジェリンは展示してあるドレスを選んだ。
「お好みの生地で仕立てられますよ」
彼は生地見本を広げた。エヴァンジェリンの複雑極まりない要求を、彼は一つ一つ明確にし見事に捌いてみせた。
「では、あちらの部屋で採寸しますので」
お母様は気遣わしげにエヴァンジェリンに付いて行った。なにかとんでもないものをエヴァンジェリンが勝手に注文しやしないかと心配なのだろう。飽きた様子のお父様にヴィルが声をかけたけれど、「私は紳士社交館へ行ってくる」と言って、お父様は馬車に乗って行ってしまった。
皆がいなくなって思いがけずヴィルと二人きりになった。もちろん店内には従業員やお客さんがいるのだから完全に二人きりではないけれど。
「お元気でしたか」
「ええ」
私はなんだか緊張して、さっきから「ええ」としか返していなかった。せっかく会えたのだから話さないと。
話題を探して辺りを見回すと、優美で繊細なレースのリボンが目に入った。
「これを編むなんて、熟練の職人をお持ちなのね」
「大したものでしょう? どこでも手に入るものではないと自負しております」彼は自分のことのように嬉しそうな様子で言った。
「こんなに細かいだなんて……針で編んでいるのかしら?」
「工房を見に行ったことがありますが、非常に細い、まるで線のような針で編むんですよ」
「すごいわ、とてつもない手間がかかっているのね。それをこんなに長く……一体何日かかるのかしら」
「一日でこのくらいしか編めません」
彼が自分の手のひらを広げて指し示した。大きくてがっしりしているというより、男性的でありながら指が長くて綺麗な彼の手の方に私は気を取られた。
「とても美しいけれど、値段を聞くのも恐ろしいわ」
「服にふんだんに使うというわけにはいきませんが、お手持ちのブックカバーやバッグにつけたら特別なものになりますよ」
「そうね。帽子につけても素敵だと思うわ。それだったら私にも買えるかも」
「ええ、それもいいですね……ご自身でお支払いになるんですか?」
「私のお小遣いで」
「姉上も?」
「エヴァンジェリンのものはお父様が支払うと思うわ」
彼はかすかに眉を寄せた。
戻ってきたお母様が私の方にやってきた。
「まあ、綺麗なレースね」
「でしょう? 帽子に巻くくらいの長さなら、いいかしら」
「それだったら、きっとあなたも買ってもらえるわよ」
「ありがとう、お母様」
私は彼に向かってこっそり言った。
「やった、許可がでたわ」
嬉しそうな笑顔を彼に向けたのだが、ヴィルは複雑な表情で私を見つめ返すのだった。




