白百合の3 ララの治癒魔法の目覚め
◇
クレサール領、マルイ治癒所
ある日の午後、マルイ先生が往診なので、私は一人で奮闘中。
「……ヒールっ」
ぽわん…。
私は力いっぱい魔力を巡らせてヒールをかける。
「ララちゃん、ありがとよ、痛みはマシになったからもういいよ、それよりか、ポーション軟膏をおくれ」
サブスさんは、葉っぱのポーション畑で働いていて、腰痛持ち、週に一回は来ている常連さん。
私のヒールよりも塗るポーションの方が効くらしい。いつも買っていってくれるけど。
「サブスさん、はい、これポーション軟膏、いつものね」
「ララちゃん、ここにお代おいとくよ」
「お大事に〜」
治癒所の入り口につけたベルがチリリンとなってサブスさんが帰って行った。
すぐに、チリリン。
あ、患者さんだわ。
「マルイ先生いるかい?怪我しちまって、ああララちゃんか」
何そのララちゃんか、で落胆した顔。
「はい、お察しの通り、私がお留守番です、でまた切ったの?」
飛び込んで来たのは大工のタテモさん、切り傷が多くてしょっちゅう来る。
タテモさんの傷を見てこの程度ならと頑張ってみる。
「ヒールっ!」
ぽわん。白い光がふんわりと傷を包んで、出血は止まった。
止まったけれど傷口が塞がらない。
「お、ララちゃん、今日は血が止まったぜ、すげーな」
「ありがとタテモさん。慰めはいいから、ポーション軟膏つけとくね」
「おおーそれ効くんだよ、あっと言う間に傷が塞がっちまう」
あっと言う間にね。
タテモさんの傷口にポーション軟膏を塗り、包帯を巻いて終了。
自分で作ったポーションの方が治癒率が高いなんてことある?
この街の人達は、ヒールは軽い治療、ポーションが重症に効くと思ってる。
まあクレサールはポーションの大生産地だから、それでいいけどね。
「ありがとな、お代、ここにおいとく、また次も頼むわ」
「タテモさん、怪我しちゃダメよ」
「おう!」
「お大事にね」
タテモさんが、手を振って治癒所を出て行く。
はあぁ、大きなため息が出ちゃう。
落ちこぼれ治癒師、これが私に押された烙印。
王立治癒院には入れなかった。
私の治癒能力が発現したのは十年前、六歳だった頃。
◇
十年前、クレサール家の隠された花園、花咲き乱れる夏。
「ララ、そんなに走ってなりませんよ」
「お母様、ホラ、ガブが蘭を食べちゃう」
「まあ、ガブリエルは何てことを」
「でもガブが食べたところから、すぐにお花が咲いてくる」
「またそんな事を、蘭は貴重なのですからね」
フフン、フンッ。
ガブリエルは、お父様から今年のお誕生日にいただいた仔馬。
私はガブリエルが大好き、ガブリエルは蘭の花が大好き。
ガブリエルと花畑を走り回って遊んでいる時だった。
ピピーッ、ピッ。
クワーッ!グワーッ!
空を見上げると、真っ黒な大きな鳥が小さな鳥を襲っている。
お母様の声が聞こえる。
「ララ、魔鳥よ、早くこちらへ」
私はガブリエルと一緒にお母様の元へ走るけれど遠い。
お母様の護衛が走り出す。
グワーッ!
魔鳥がこちらを目掛けて火を吐いて攻撃してくる。
「ガブ、怖い」
私は足がすくんで動けない。
しかし魔鳥が吐いた火は花畑の上空で弾けた。
それを見た魔鳥がこちらに向かって滑降し突撃してくる。
グワンッ!
花畑が激しく揺れた。
その瞬間に花びらが辺り一面に飛び散って、視界が消える。
周りに霧がかかったようになって、ガブリエルが飛び立った。
え?
ガブに翼が生えて空を飛んでる?
私にはハッキリと見えた。ガブリエルが魔鳥と戦ってやっつけるところを。
魔鳥は跡形もなく燃えて消え、ガブリエルは花畑に降り立った。
フフン。
舞っていたたくさんの花びらが消えると、花畑が全滅していた。
「お花がお花が」
私は泣きながら、大好きなお花畑に謝った。
「ごめんなさい、守ってあげられなくて、ごめんね、ごめんね」
そこで私の記憶は途切れた。
その日から丸二日間眠り続け、目覚めた時にお母様から聞いた。
魔鳥が居なくなったあと、私は、お花畑の地面にしゃがんで泣いていて、みるみる間に花が蘇るのを見たと仰った。護衛騎士も見ていたので間違いないらしい。
それを治癒魔法といって、私はその力に目覚めたらしい。
私はお花畑の回復は覚えてないけど、ガブリエルに翼が生えて飛んだと、お父様とお母様に訴えたけれど、御伽話の読みすぎだと相手にしてもらえなかった。
ガブリエルに「飛んだよね」と聞くと、フンフンと言ってるのに。
あれは幻を見たのかしら。でも魔鳥も消えたのに。
でも私は聞き分けの良い子だったので、もう私のお馬さんが飛んだ、とは言わなくなった。
その年の秋、お父様に連れられて、初めての王都へ向かい、
王立治癒院の治癒師認定試験を受けた。
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