白百合の10 ヴァンドール様に求婚されました
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お城のようなグラサージュ公爵邸。
すごい。とにかくすごい。
ヴァン様のローブに包まれ、目の周りだけ出してもらって、小脇に抱えられたまま、ヴァン様がラファールから降りたので、私も降りたことになった。
こんな明け方に、大勢の使用人が、一斉に礼をする。
「ヴァンドール坊ちゃま、おかえりなさいませ」
ヴァンドール坊ちゃま、だって。
さすが公爵家。
なんかおかしいわ。
ふふっ。
ちょっと笑っていたら、身体が震えているのが伝わったみたいで、ローブごと、ギュギュッと締め上げられた。
うっ!
ごめんなさい、ヴァン様。
そうしてお屋敷の中に入ると、やっと床に下ろされた。
私はまだ、ローブに包まって、目だけ出して突っ立っている。
足には寝室専用の絹の部屋ばきのまま。
「マリー、これを何とかしてくれ」
「坊っちゃま、こんな明け方に姫君を攫ってきて、これ、ですか?」
「攫ってはいない。後からお父上も到着する」
「左様でございますか、で、なんのお支度を、初夜でしょうか」
「っ、マリー!何を言う」
「舞踏会で三回踊られたと、使用人一同、伺っておりますが」
「ギルバート兄上か」
「マリー、そのくらいにしてやれ、弟にも事情があるのだろう」
次はお兄様が登場だわ。
「で、そのローブに包まっているのが、お前の姫か」
お兄様らしい方が、こっちを見ようと近づいてらっしゃる。
どうやって挨拶をしようかと考えていたら、また抱えられた。
「兄上にはお見せできぬ。マリー、ついてきてくれ」
確かに、ローブの下は夜着だし。
そしてどんどん上に上がって、三階の奥の部屋に入りそこのソファに下ろされた。
「ララ、とりあえず身支度をしてくれ。マリーは、私の乳母だった人だ。信頼していい」
「はい」
「マリー、支度ができたら父上のサロンへ」
「かしこまりました」
「私は先に、父上達と話がある。彼女のお父上も、追って騎士団の護衛で到着される事になっている」
ヴァン様が、ローブ上から私の頭を撫でておっしゃる。
「こんな形ですまないが、ララを守るためだ。理由は全て説明する」
「あの、ヴァン様、ご体調は大丈夫でしょうか」
「もちろんだ、案ずるな」
そしてさっさと部屋から出ていってしまわれた。
「あの、マリーさん、ペルラ・クレサールと申します。よろしくお願いします」
「マリーとお呼びください。ペルラ姫様は、昨夜から大変でございましたね。姫様をこんな着古したローブでぐるぐる巻きにするなんて。あら、まあ、これは」
マリーさんはローブを剥がして目をむいた。だって夜着のまま。
それに素足で部屋ばき。
「坊っちゃまは何を考えておられるやら。寝所に押しかけたのですね」
「き、緊急だったそうです」
「まあ、あの冷静沈着な坊っちゃまが、そこまで急がれていたのなら、急いで宜しかったと思いますが」
そう言いながら、少し温かいお湯を勧めてくれる。
顔を洗って口もきれいに。
柔らかいタオルで拭かれ、テキパキと新しいドレスが並べられる。
「さあ、どのドレスにいたしましょうか」
「えっ、これは?」
「昨夜、奥様がドレス店を呼び、急いで取り揃えてくださったのですよ」
ええっ。
さすが公爵家。
だって昨夜は王城の舞踏会で、どこもドレス店はお休みのはず。
「ではこちらにいたしましょう」
蒼のドレスの胸元には銀の縁取り、胸の下で銀のリボンを結ぶようになっている。もう深夜、家族で過ごす時間のドレスだけれど生地もリボンも最上級のものだとわかるわ。
「少し大人っぽくて素敵ですね」
「ええ、とてもお似合いですよ。ではお髪を整えましょう」
透き通る銀色の私の髪に、蒼色のリボンが結ばれた。
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公爵邸の公爵専用サロンにて。
「早々にバルトランザとは婚約解消になるので、気にされるな」
「しかし、公爵殿、うちでは家格が」
「クレサール殿、王家から何度も陞爵の打診もあったであろう。辞退してきた理由も、今だからこそわかる。この件が片付けば、安心して陞爵を受けられるがよい」
「しかし、ただのポーションの生産地ですから」
「相変わらず頑固者は変わらぬか。ははっ」
「目立たぬ方がよいので」
「それもわかるが。代々ポーションの大生産地を守ってきた事がこの国ヘの貢献である。その上バルトランザの企みに気づき、この十年間、特級治癒師を隠し全員を保護してきた。国の未来をも救っていることに誇りを持ってよい」
グラサージュ公爵の説得にクレサール子爵は頷く。
「恐れ入ります」
「この件は、陛下にもバルトランザの罪を上申している。すでにギルバートは、魔術師団から出された証拠を法務の者と固めに入っているので案ずるな」
「御意」
「クレサール殿、私は御息女の治療がなければ、命を落とすところでした。二度も助けられている。不思議な縁で出会ったが、正式に求婚したい」
「ヴァンドール殿、私に異存はありませんが、娘の父としては、政略結婚ではなく、本人の意思を尊重してやりたいのです」
「もちろん、求婚の許可をいただければ、私からペルラ嬢に伝えしるつもりだ」
「野放しに育った娘ですが、領民を愛し、命を尊ぶ娘です。どうかお願いします」
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コンコン。
「ペルラ様がお越しです」
サロンの扉が開くと、私は一歩を踏み出した。
男性ばかり。ヴァンドール様とお父様がいらっしゃるので、ほっとする。
「ペルラ、グラサージュ公爵閣下に、ご挨拶を」
グラサージュ公爵。
この国の重鎮であり、現在の国王陛下の政務を支える、王弟殿下。
先ほどお会いした国王陛下に面影が重なる。
「お初にお目にかかります。ペルラ・クレサールにございます。この度は、数多の苦難からお救いくださいまして、ありがとうございます」
「ペルラ嬢。グラサージュ家当主だ。息子ヴァンドールの命を救ってくれて礼を申す。そして義姉上がいたくあなたを気に入った。
あの王妃に目をつけられては逃げるに逃げられぬ。甥っ子のジュリアスか、息子のヴァンドールか、どちらかを選んでくれ」
え、ええっ——!やっぱり,さっきのお兄様の説明も当たっていたのね。
ヴァン様が立ち上がって、入り口にいる私に近づいてくる。
そして私の前で跪く。
「ペルラ・クレサール。命を救ってくれた白百合の乙女。私の妻になってくれないだろうか」




