戦士たちの主
それに顕著に反応したのは、戦士、兵士、文官たち、使用人たち。
……私以外の、全員が。
特に戦士と兵士たちの反応は凄まじく、私に手を伸ばしかけていたイヴも蒼白な顔をして身を正した。
一斉に、道ができる。
私の前まで、人垣が割れる。
「リオノーラ」
アステライトの声がした。
眩んで、狭まりかけた視界に、金色と青空色が映る。
「アス、テ、ライト様……」
手を取られ、そっと腰を抱かれ、抱き寄せられた。
「どうした? ……ゆっくり息をして、深呼吸して。鼓動が速い」
アステライトの言うとおりに、何度も何度も、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
「……爺たちと弓兵に絡まれて疲れたか?」
後ろでイヴが「ひでぇ」と呟き、ゴーシュとレンゲンもうなずいた。
「ちが……、お話は、楽しくて……」
「ん、分かってる。冗談だ。さすがにこいつらが女性にひどいことする奴らだなんて思っていない」
ほっとする。
気がついたら自分ではほとんど力を入れて立っていられなくて、アステライトに抱き寄せられるままに身を寄せていた。
くらくらと目の前が眩むけれど、息をするたびにマシになるような気がする。
ここなら、平気だ。
だって、アステライトの腕の中なのだから。
「ごめん、なさい……。こんなに、たくさん、人が、いる、中に、いるなんて、初めてで……」
「人?」
チラリとアステライトが周りを見る。
彼にしてみれば、それほど大した人数ではなかったのかもしれない。
でも、私にしてみれば、これだけの人数の人にいっぺんに囲まれたことはなく、勝手に感じていた圧迫感や緊張感に目が回ってしまったようだった。
「そうか。……ご苦労、散れ」
まるで束縛を解かれたかのように、だけどもう一度びしりと揃った礼を取って、ある程度の兵たち、見物をしていた様子の使用人たちなんかは急ぎ足に去っていった。
もちろん、イヴとゴーシュ、レンゲンは畏まった身のこわばりを解いただけで、アステライトに改めて向き直った。
「ネログラヴィがいないから、暇してるのか? レンゲン」
イヴの見立てと同じことをアステライトも言う。
「はい、今日など午前中の予定が丸ごと空いておりましてな。訓練場所の見直しと巡回すら終わってしまいもうした」
「先ほどイヴから潜降隊によく選ばれる者を鍛えるのはどうかと案をもらいましてな。面白そうだから儂も付き合おうと思っておる」
「ああ、それはいい。なんなら各隊からダンジョン潜降に行きたい奴を選出して、一度潜ってこい。近いうちにネログラヴィを連れてダンジョンに行く話もあっただろ?」
楽しげにキラキラと輝いた歴戦の戦士たちの目が、途端に保護者のそれに変わった。
「ぬぅ、無茶のできそうな楽しみが、一瞬にして幼子の引率になってしまった」
アステライトは口角を上げて、二人に笑いかける。
「二度潜ればいい。一度目はネログラヴィを連れて慎重に。二度目は好きにやってこい」
その提案にゴーシュは目を見開き、レンゲンはにやりと笑う。
「現当主様は老体に鞭打つのが上手いもんだ」
「そうだな。だが老人でも無理しない程度に楽しみは必要だろう?」
「はっは!!」
楽しげな戦士たちの会話を、イヴが青ざめて聞いている。
「ダンジョン潜降が楽しみに当てはまるなんて、どーなってんの戦士の思考。これだから戦馬鹿どもは……」
若者の辛辣な悪態に歴戦の戦士は弓兵団長の首に腕を回してキュッと絞めた。
「ぐえ」
それ以上、イヴは言葉を紡げない。
「既存潜降隊の訓練は任せる。次潜降隊の選出ができたら、一度見せてくれ。明日でもいい。リオノーラを城の中へ連れて行く」
私を抱き支えていたアステライトの手が、いっそう優しく背を抱いた。
「はい、閣下」
「では、奥様、またいずれ」
「どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
その様子を見てから、彼が丁寧に挨拶をしてくれる。
こちらもそれに応えようとしたのだけれど、アステライトは一向に、腕の中から私を離してはくれなかった。
仕方なくそのままの状態で、彼らに挨拶を返す。
「お話、楽しかったです。どうぞまたお聞かせくださいませ。失礼いたします」
彼らに笑顔で別れを告げると、アステライトは、エスコートというよりも半ば強制的に私を促して、城の中へと向かった。
心配そうについてきてくれる、シアンとニビア、文官たち。
「シアン、文官たちを連れて、リオノーラの今の作業を引き継げ。ニビア、先駆けて、少し早いが昼食の用意を伝えてくれ。リオノーラが食べやすそうなものを選んで、彼女の私室へ」
「はい」
「かしこまりました」
二人はすぐにアステライトの言葉に従って動き出した。
「アステライト様?! もう大丈夫です。気分も治りましたので、仕事に戻ります。シアン、待って……」
文官たちを連れて行ってしまうシアンを呼び止めようとしたけれど、すぐにそれをアステライトが止めてきた。
「駄目だ。少し休め」
「大丈夫です!!」
「今休まないなら、このまま部屋に閉じ込めるぞ? 休んで、昼食を取って様子を見て、それで大丈夫なら午後からまた公務に戻ればいい」
「え……」
アステライトの言い分は、決して私をむやみに仕事から、夫人としての公務から遠ざけようとしているわけではなかった。
ただ本当に、体調の悪くなった私を気遣ってくれているだけだったし、無理をしなければ午後にはまた普通に動き出していいとまで言ってくれている。
だから素直に、その言い分を飲むことができた。
どこか心配そうなアステライトを見つめ返して、ゆっくりとうなずいた。
「はい、そうします」
「よし。いい子だ」
あ、また子供扱いだったのか。
そう思ったときには、足が地面から浮いていた。
「ひゃあ?!」
さも当たり前のように、アステライトは私を抱き上げる。
驚いて、アステライトの首に手を回して、不安定になりそうな自分の身体を支えてるためにぎゅっと抱きついた。
「ぐ…っ」
アステライトが小さくうめいた声が聞こえたけれど、彼は重さなんて感じていないかのように私を抱いて、確かな足取りで歩き始めた。
リオノーラ
アステライト
イヴ
ゴーシュ
レンゲン
シアン
ニビア
解散を命じられたウォルフィンリード城内の皆々




