幕間 一人じゃない目覚めと不確かな足もと
リオノーラ視点
黎明に目を覚ました。
気だるい眠気に、まだまぶたが重い。
身体を包む、甘い倦怠感。
そして、身体を包む力強い腕と、寄せ合った胸、合わさった肌。
抱きしめられたまま、眠った。
目覚めても、抱きしめられていた。
眠そうな私を見つめている、青空色の瞳。
目が覚めたときに、アステライトがそばにいてくれた。
このウォルフィンリード城に来てから初めてのことだな、と、ぼんやりした頭で思った。
独りじゃない目覚めを嬉しく思ったのは、いつぶりだろうか。
「おはよう、リオノーラ。……まだ眠っててもいいんだぞ? まだ朝早い」
「おは、よ……、アステ、ライト、さま」
「ほら、まだ眠そうだ」
気を抜くとまた眠ってしまいそうな私を笑って、アステライトは改めて私を抱きしめ直した。
とくとくと、お互いの心音が聞こえている気がする。
それほどまでに近く、それほどまでに胸を重ね合わせて密着していた。
「また…、軍行…、ですか?」
「いや、朝はいつもこのあたりの時間に起きているんだ。日課の鍛錬だよ。勝手に目が覚めちまう。俺のせいで起こしてしまったんだとしたら、悪かった」
無骨な手が、髪を、頬を撫でる。
優しく、優しく。
「平気、です……」
「俺が行ったらもう少し眠るといい。疲れているだろう?」
私を気遣いながら触れていく手の感触。
……ああ、ステラの手だ。
その大きな手にそっと寄り添う。
「リオノーラ、俺は、……これからも何度だってあんたを抱きたい。そのたび、こうして一緒に眠りたい」
はっきりとしたアステライトの言葉。
寝ぼけた頭で考えた。
アステライトはそれほど私の身体を気に入っているのか。
それは喜ばしいというか、良かった、と思えることだけど。
「そんなことをしていたら、子ができてしまいます」
「構わない!!」
思ってもおらず、アステライトは即答した。
「俺とリオの子だ。慈しんで育てる」
ぎゅうと、私を抱く腕に力がこもった。
返事に困る。
ええっと、……「白い結婚」なのに、子ができたらどうなるの?
私の不義を疑われる?
でも、アステライトが自分の子だと認めれば済むことかもしれない。
できた子が男の子だったら?
ウォルフィンリードにはもう、アステライトが正式に跡継ぎと定めた養子がいる。
その子との関係は?
実子ができたからと立場を変えると、周りに示しがつかないのでは?
でも、実子を蔑ろにするのもおかしいよね?
では、女の子だったら?
……私と同じ魔女の血を引いた女の子。
未来の絵図が何も見えなかった。
欠片さえ想像がつかなかった。
あまりにも突拍子もなさすぎて。
兄様が帰ってきたら、エルトフォード公爵家に帰るのに?
子ができても構わないの?
子はどうするの?
連れて帰っていいの? それともウォルフィンリードに置いていけというの?
兄様が帰ってきても、私はウォルフィンリードに居続けるの?
あれ?
私、どこに足をつければいいの?
子を連れてエルトフォード公爵家に帰る?
そんなことできる?
子と一緒にウォルフィンリードにこのまま辺境伯夫人としてとどまる?
養子の子は?
兄様はそれを許す?
何も答えが出てこない。
どこにも落ち着ける場所が見つからない。
頭の中がぐるぐるして、考えるのに疲れてしまって、目を閉じた。
「……リオノーラ?」
アステライトが呼びかけてくれた声が、どこか遠くに聞こえた。
襲い来た眠気に、抗えずに身を委ねる。
私の額に、アステライトがそっと唇を寄せてくれた感触が確かにあった。
それを感じながら、眠りに落ちる。
……あなたの、想い人はどうするの?
そんなこと、一番怖くて聞けない。
アステライトの腕の中で就く眠りは、それでもひどく安らかだった。
リオノーラ
アステライト




