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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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アステライトの過去 七年前 儀式ダンジョン潜行

アステライト視点

 七年前、俺が二十歳の頃。

 同じく、二十歳になったフォーレスタ。


 王族には、ある伝統儀式として、成人となる年齢を迎えた年に、ダンジョンへ潜り、特定の層までたどり着いて強さを証明するという通過儀礼がある。

 王太子フォーレスタも、もれなくその儀式に取り掛からなければいけなかった。


 ダンジョン探索、潜行といっても、王族が潜るダンジョンだ。

 ウォルフィンリード領とエルトフォード公爵領のほぼ中間に位置し、管理は何十年も王国軍がやっている。


 最下層まで潜るわけでもなく、目的地は途中階層の比較的安全な場所まで。

 そこまで問題なく行けるのであれば、戦うだけの力があると国内外に認められる。そういった儀式だ。


 フォーレスタは決して弱くない。

 軍を持つ国の王族として真面目に、剣士、騎士としての研鑽を積んできた。

 ゆうに、彼を守る近衛騎士たちに引けを取らない腕前だ。


 なまじ誰もがそれを知っているものだからこそ、生まれていた余裕が、油断になった。


 フォーレスタたっての願いで、ダンジョン潜行のためのパーティに俺も加わっていた。

 昨年に母が死に、そのショックがあってか、父は少し身体を弱くし、第一線を退く準備を始めた頃だった。


 俺はウォルフィンリード辺境伯領の軍を任されることはあっても、内政と正式なウォルフィンリード辺境伯の位は弟が継ぐ予定だった。


 なぜなら、誰も明言はしていないが、王太子フォーレスタの近衛騎士団長もしくは騎士団長、それか王国軍のどこかの将軍の地位に、そう遠くないうちに王命と実力を持って俺が指名されるだろうということが、戦士の称号を正式に賜った十六の頃から囁かれ続けているからだ。


 それは半ば冗談ではなく、父辺境伯からも、フォーレスタの父国王からも直接話題に上げられるほどの内容だった。


 フォーレスタが国王になったなら、俺は間違いなく国軍の中央に引きずり込まれる。だからこそ、辺境伯の地位は前もって弟が継ぐことを、誰もが、俺さえも認めていた。


 そう分かっているからこそ、かなり自由気ままな毎日だった。

 もちろん軍を率いて各地の魔物を払うことを第一としているが、自分だけがやらなくても、弟が軍を率いることもあるし、先頭で戦うことはなくてもまだ父が率いることもある。

 しょっちゅうやってくるフォーレスタと肩を並べて冒険者ごっこをする自由さえあった。


 フォーレスタのダンジョン潜行の儀式さえ、そんな遊びの延長のような気分だった。

 


 王国軍管理のダンジョンだ。

 その内容は知識として知っていても、普段探索に潜ることはない。冒険者たちでさえ立ち入ることは許されずにいる。


 だからなのか、王太子フォーレスタの潜行があるからと前もって露払いがされていたのか、あまりにもあっさりと目的の階層までたどり着いて、あまりにもあっさりと儀式自体は終わった。


 誰もが拍子抜けしてしまった。


「こんなもので良いのか?」


 歴代の王太子の名前が連ねられた石板を前に、フォーレスタが口を開く。

 誰もが言わずにいたことを、この王太子は率先して口にしやがった。


「露払いをしてくれた者が強すぎたのかもしれんな。ふむ、腕がたつのだろうか。……ステラとどちらが強いだろう?」

「またそれか…、そういう興味を振りまくのはやめろ」

「だーって気になるじゃん? 今の国内最強は誰かなーって」

「それに巻き込まれるこっちの身にもなれ。王まで巻き込んで御前試合。騎士団長殿と戦いを強いられ、いい迷惑だ」

「危なげなく勝ったくせに、何言ってんだよ」


 そんな突然の試合を提案したフォーレスタ(元凶)は、悪びれもせずに鼻を鳴らして笑う。


「あのなぁ、戦士でいることと、戦士を統率し率いることは別物だ。騎士団長殿は戦士としても力量は申し分ない上に、俺など足元にも及ばぬ統率力をお持ちだ。俺のように、人相手じゃない戦闘をこなす者の相手を予備知識もなく突然やれと言われたら、そりゃ虚を突かれて負けることもあるだろう」

「その一敗で命を失うのが戦だと騎士団長も言ってたろう? 勝ちは勝ちだ。それはステラが一番よく分かってるじゃないか」


 今日の愛称で揚々と名を呼びながら、フォーレスタの顔には自慢げな笑みが浮かんでいる。

 彼は今、ただただ親友が国内最強である事実に鼻高々なだけの若者だ。


「どんな戦いであれ、最後まで生きてその場に立っている。生きて帰れる。それが勝ちだ。ステラがいつでも教えてくれることだぞ?」

「……それはそうだが」


 ついには言い負かされて、しぶしぶ認める。

 満足気ににやぁっと、親友の顔に笑みが広がった。


「さて、ここでだべっていても仕方がない。今から上に戻れば、陽が暮れる前にはウォルフィンリード城へ戻れるだろう」


 俺とフォーレスタのやり取りを微笑ましく見ていたパーティの近衛騎士たちも、帰り支度に動き出した。

 それを見て、一歩、足を進めようとして。


 ピリッと、空気が震えた感覚を味わった。


 今まで、無いと思っていた敵意が、殺意が、踏みしめた足の下、地下から感じられた。


 本当に、あっけないほど敵に遭遇しないダンジョン潜行だった。

 露払いがされたと思っていたのが、もしも間違いだったなら?

 誰かが作為的に、上階から下階へ敵を集めておいたのなら?


 それは、……王太子暗殺を目的としたものに他ならない。


「警戒せよ!! 王太子を守れ!!」


 叫んだ俺の声に、近衛たちはすぐさま反応した。

 一丸となってフォーレスタを囲み、警戒態勢に入る。

 フォーレスタも自らの剣に手をかけ、俺の突然の行動に驚いた目を向ける。


 次の言葉を放つ前に床が轟音を立てて抜け、俺たちはさらなる地下へと落下した。




 闇の中、もうもうと土煙、砂煙が上がる。

 空気の籠もっていた、カビ臭い匂い。

 そして、俺には馴染みのある、溜まり溜まった魔素の匂い。


 飛び起きて、全身に落下のダメージや崩れた床の破片などによる怪我がないことを確かめる。

 軽く上を見上げたが、見えるはずの、落ちた上階が見えない。

 闇の中、塊になって動く複数の人影がある。


「フォー、無事か」

「無事だ、ステラ」


 ひとまず安心する。


「床が抜けると同時にダンジョンの転移トラップにかかるようにしてあったようだな。……最下層、ここは吹き溜まりだ」


 フォーレスタが剣を抜くと、王家に伝わる守りが付与された刀身が輝いて、この吹き溜まりの闇を照らした。


 眼前に待つ、目を疑いたくなるような魔物の数。


「なぁ、フォー、最近誰かに殺されそうになるほど憎まれることをしたか?」

「さぁね、ステラ。そんなこと昔っから多すぎて、いちいち覚えてられん」


 刀身の輝きの中に親友の笑顔。


 激戦が、始まった。





アステライト・ウォルフィンリード

フォーレスタ・アスラン

近衛部隊の皆々

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