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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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狼、理解者を得る。そして

 ベッドの中ですやすや眠っているリオノーラの寝顔を見て、思わず笑みがこぼれる。


 濃厚な交わりのあと、やっぱり酒の影響もあってか、リオノーラは深く眠りに落ちていった。


 自分も十二分に得られた充足感と満足感で、眠るリオノーラを抱き続けるような狂気じみた行動には移らずに済んだ。

 仕方なかったとはいえ、今までの自分の常軌を逸した行動に、自分自身で恐れを抱く。反省しなければいけない。


 リオノーラを軽く身綺麗にしてやって、女性用の寝衣の代わりに俺のシャツを着せておいた。

 普通なら侍女かメイドを呼んで彼女の世話を任せたりするのだろうけれど、眠っているところをわざわざ起こすのも可哀想だし、なにより、リオノーラが俺の部屋の寝台にいるということが、俺にとっては安堵を覚えられる状況なんだと気づいた。


 穏やかに眠るリオノーラの髪をもう一度撫でてから、浴室で軽く湯を浴びてさっぱりして、簡単に身支度を整えて、部屋を出た。


 まだ深夜にもならない時間だ。

 急ぎの戦事なんかが発生しなくて良かった、と甘えたことを思った。


 戦いがあるのが当たり前の日常。

 戦い続けるばかりでは生きていけないのも分かりきっている。


 それでも、リオノーラとの甘いひとときを邪魔されなくて良かった、と心底思って、勝手に笑みがこぼれた。


 向かっているのはシアンの部屋だ。


 まだ深夜ではないとはいえ、遅い時間には変わりない。

 ネログラヴィはもう就寝時間を過ぎているから、話をするのはまた後日となってしまったなと苦笑いを浮かべる。


 家令長の私室の前まで来て、ドアを叩く。

 俺が来るのが分かっていたと言わんばかりのシアンが、急いでドアを開いて招き入れてくれた。


 なんと、彼の部屋の中にはニビアも居た。

 時間的には勤務外。二人ともが私服で、就寝を控えた装い。


 城を取り持つ使用人たちの長として、彼らはよく意見交換しているから、こんな風に俺を待ち構えていても不思議ではない。


 シアンが俺の分も温かな茶を用意してくれて、ニビアは用意してあった夜食を、一番の上座へと座った俺の前に並べた。


 そういえば夕食をほとんど食べないままに、リオノーラを連れて部屋へ引っ込んでしまったから、腹は減っている。

 そんなことも分かってくれている二人の細やかな気遣いに笑みがこぼれた。


 シアンは黙って、いつもの彼らしい穏やかで静かな表情で俺がなにか言い出すのを待っている。

 ニビアの顔には必死に押し隠そうとして隠しきれていない複雑な、ハラハラとした心配が、抑えきれない不安が見え隠れしている。


「ええと」


 どう話そうか考えて、とりあえずシアンが入れてくれた茶を一口だけ飲んだ。


 ニビアが祈るように手を組んで、俺の口から人道に反した言葉が出てこないことを祈っている。


「俺の怪我を手当てしてくれた魔女がいたと話していたろう? 俺が、妻にしたい相手がいると探していた女性だ」


 二人はこっくりとうなずいた。


「長年のご当主様の想い人ですね。もちろんお話を覚えております」

「ご当主様の顔に目立った傷が残らなかったのは彼女の薬のおかげだと話して聞かせてくださった方ですね」


 二人の答えに軽くうなずく。


「リオノーラなんだ」

「はい?」

「なんと?」

「だから、俺が探していた魔女リオは、リオノーラなんだ。リオノーラ・エルトフォード公爵令嬢が、そうだった」


 その言い方にシアンはすぐにピンときたようで、聡明な彼の静かな視線を受けた。

 ニビアはへなへなと力なく、その場に座り込んだ。


「まさか坊ちゃまがリオノーラ様のお美しさに王命も忘れて色狂いになられたかと最悪のことを想像しておりましたが、……そんな御事情が」


 その言葉には思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「色狂いか、手酷いな。……否定はせん、明らかに自分を見失ってた。反省する。……それと坊ちゃまはやめてくれ」


 亡き母親の侍女をやっていたニビアにしてみれば、俺と弟はいつまで経っても坊ちゃまなのだとときどき言われる。勘弁してくれ。


「まだリオノーラとも詳しい話をしきれていない状態だ。ネログラヴィにも会わせ損なったしな」


 用意された夜食のサンドイッチを手に取る。

 肉と野菜がぎっしりと挟み込まれたもの。


「フォーレスタの命で、エルトフォード公爵令嬢を助ける意味でした結婚だったが、……俺には救いだった。フォーレスタに感謝しなきゃいけないほどにな。しかし、彼女の複雑な状況はまだそこまで大きく変わっていないだろう。俺とリオノーラの関係は、とくに使用人たちに話さなくていい。その上で、リオノーラがこの城で快適に過ごしていけるよう、協力を頼む」


 ニビアは慌てて立ちあがり、シアンと揃って、胸の前に手を当てて丁寧な礼を取った。


「おまかせくださいませ、ご当主様」

「誠心誠意奥様にお仕えいたします」


 二人の心強い言葉にうなずき、サンドイッチにかじりつく。


 理解者も得られた。


 明日、リオノーラが目を覚ましたら、今度こそ話をしよう。


 夜食を食べ終え、シアンの部屋をあとにし、寝支度を整えて、眠るリオノーラを抱きしめて俺も眠りについた。




 分かっている。

 こういうのって、思ったとおりにいかない、ってのがウォルフィンリードで戦う者の運命なんだよな。




 まだ夜も明けない早朝に、報せを受けて目を覚ました。


 先日から起こっている魔物の異常行動により、隣領小国が危機に見舞われているようだと。


 そこは、ネログラヴィと出会った場所でもあった。

 放っておくことなどできない。


 まだ目覚めない、よく眠っているリオノーラの額に、髪に口づけて、戦線へと向かった。



 まさかそこから何日も、城へ帰ることができないなんて思いもせずに。





アステライト

シアン

ニビア

眠るリオノーラ

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