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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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リオノーラの過去 朝

 こんな触れ合いがあるなんて思いもしなかった。

 こんな気持ち良さがあるなんて思ってもいなかった。


 こんなに、……嬉しくて愛しいなんて思わなかった。


 感じている熱が、どちらのものかもわからない。

 また身体のなかから込み上げるような快楽の波に襲われて、たくましい身体にしがみつきながら、あられもなくステラの名を呼びながら果てる。


 頭の中が溶けているよう。

 ステラの激しくて優しい口づけにも、溶けていく。


 もっと彼のことを感じていたいのに、もっと触れ合っていたいのに、意識に霞がかかっていく。

 耐え難い睡魔に襲われる。


 それはあまりにも気持ちよくて、心地よい誘いだった。


「……したら……、話が……、…リオ」


 ステラの声を聞いた気がした。

 でも私はそれに答えることもできずに、眠りの中に落ちていった。


 それは、思えば一切の不安のない眠りだった。


 私の身体を抱きしめるステラの腕の強さに、全幅の信頼を寄せていたのだと、後になって気づいた。


 あんなにも幸せな気持ちで眠りに落ちたのは、後にも先にもあの瞬間しかなかったと、私はしばらくしつこく思い出すことになるなんて、もちろんこのときは思いもしなかった。



 

 ゆっくりとまぶたを開く。

 まだ、黎明も迎えていない夜と朝の間の時間。


 一番に目に映ったのは、至近距離にあったステラの寝顔だった。


 ステラはマントで私を包み、そしてその上から抱きしめてくれていた。


 眠りが深いステラの腕が、するりと私の背から落ちた。


 乱れに乱れた服はあらかた直してあって、ドレスも(おおむ)ね整えられていた。

 ステラがやってくれた以外に考えられない。


 ステラは案外器用なことは知っていたけれど、苦も無く女性に、(簡易的なものとはいえ)ドレスを着せることができるほどだとは。


 それは、経験があるからかな? 他の女性にもドレスを着せてあげるのを手伝ったことがある、とか?


 私は初めてだったから、ステラが男女の営みについて上手かったのかどうなのかと判断することはできない。

 だけど、私はステラとの行為の中で、苦痛を感じなかった。


 むしろ。


 全身が、じりじりと甘く疼いている。

 腹のなかに、まだステラが入っているような感覚さえ明確にある。


 疲れているのに眠り続けるのではなく目を覚ましたのは、それこそ疲れているからだ。


 身体が火照っていて、そのせいで目が覚めた。



 目覚めなければよかったのに。

 そうしたら、……去らずにいられたのに。



 ステラを起こさないようにそっと離れて、私を包んでくれていたマントを彼にかける。

 そして、彼の片目を覆い隠している眼帯の上に、静かに口づけた。


 声も出さない。

 言葉にもしない。


 別れはもう告げて、願ったのだから。


 それでも、心の中で何度も繰り返す。


『ありがとう、ただのリオを抱いてくれて』


 わがままな願いを、叶えてくれて。


『もう、私のことは忘れて』


 境界の森の家に住む魔女のリオは、もういなくなるから。

 二度と、戻らないから。


 最後にもう一度だけ、ステラの唇にそっと唇で触れる。


『私は、忘れないから』


 たとえ、あなたの本当の名前も知らなくても。

 星の名前の、私の狼さん。



「……、…さよなら……」



 音にもなっていない声で、呟いた。


 そして、ふらふらと力の入りにくい足取りで、私は私が帰るべき場所へ向かって、歩き出した。


 振り返りはしなかった。

 そんなことをしたら、声を上げて泣いてしまいそうだったから。


 両手で口を押さえて、嗚咽を飲み込みながら、歩いた。



 ……決して、振り返りはしなかった。





リオノーラ

眠るステラ

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