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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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リオノーラの過去 イチヤヲトモニ? ネヤゴト?

 兄様の出発が近づくに連れ、気落ちしていく私に追い打ちをかけるように届きまくる、求婚の釣書と絵姿。

 そこに添えられている手紙にはよく「公爵様にお力添えし、貴女を支える者になりましょう」なんて一見甘い言葉が書かれている。


 兄様に力添え?

 いや、どこの誰とも知らない人の支えなんて要らないでしょ?


 呆れ果てて思わずポイ、と投げ出した手紙が床にいくつも落ちた。


 机の上に山と積まれた、着飾った立派そうに見える男性たちの絵姿をそっと手で押しのけても、この問題が消えるわけではない。


 これまた、他の釣書なんかを運んできたビオラと数人のメイドたち。そんな私の辟易とした表情を見て、ビオラがかわいそうなものを見る目で笑った。


「私、この方たちにもちろんお会いしたことがない。それなのに、まるで私が兄様がいなければ何もできず、誰か伴侶を得て支えを必要とするばかりの女だと決めつけている。貴族の男性というのはそういうものなのでしょうか?」


 すると、ビオラもメイドたちも真剣に向き合ってくれた。床に放り出した手紙を手早く拾って、机の上に並べるメイドたち。


「貴族の男性、と括らずとも、男はそういった、女性に対する幻想が強い傾向にありますね」

「そうそう。アスラン国の貴族内に、女性で当主の座におられる方は、今は大変少のうございますし」

「女性で重役に就いておられる方も、まだまだ少のうございます」


 それは確かに、と納得する。


「政治の世界はやはり男性が多いけれど、それで世の中が上手く回るわけでもないのよね」


 ボソリと呟くと、同意見だとメイドのみんながうなずいてくれた。


「か弱く守りたいと思われる女性、というものは、ある種男性の夢なのでしょう」

「夢ですか?」


 いったいどんなものなのか、想像がつかなくて聞き返した。


「はい。同じ言葉を話し、同じ環境に生き、同じ勉学を修めても、全くもって理解しがたいとさえ思える生き物。それが男と女という生き物です」

「そうそう。まず感情の捉え方が全く違います。なぜあれほど粗暴で粗野になれるのか」


 呆れが含まれた内容に、別のメイドたちも乗っかってくる。


「あなたの恋人は騎士ですっけ? 私の夫は冒険者ですから、もっとひどいわよぉ?」

「あら? 城勤めの執事ですら大概ですわよ? この間なんて!!」

「私の恋人は厨房勤めなんですが、優しかったのに、どんどん周りの影響で荒さが!!」


 メイドたちの口が軽くなって、どこか憤って、恋人や夫、想い人、身近な男たちへの遠慮のない愚痴になる。


 ビオラが止めようかと口を開きかけたのを、私はそっと口の前に指を立てて止めた。

 本音を話す女性たちの言葉を聞ける機会はそう多くないから。


「ついには、他の女性に手を出す始末!!」

「あれってなんででしょうね?! 恋人がいるなら、そのあたりの節度を持てばいいのに!!」

「そうですよ!! 大負けに負けてソーラス様や王太子殿下ほどの財力と美しさをお持ちだったら、一夜限りの閨事だって喜んで受けてしまいそうですけど!!」

「一介の冒険者が、自分を好いてくれているからと若い女に手を出すとか」

「だいたいの男は、若くて綺麗で自分の好みだったり、好意を持ってくれているというなら一夜を共にするのに抵抗がないそうだけど!!」

「そういうのは私という恋人がいないときにやってほしいものですわぁ」

「どうしたの? その恋人?」

「もちろん、ギッタンギッタンにしてから手ひどくフリました」


 皆から賞賛の拍手が湧き上がった。


 私は黙ってそれを見ながら、首を傾げた。


「イチヤヲトモニ? 一緒に寝るのはそんなにだめですか? あー…、確かに生理的嫌悪を覚える方とは夜通し同じ空間にいたくはないけれども」


 机の上の山積みの釣書を見ながら思う。

 メイドたちが、どこか不思議そうな表情で私を見た。


「リオノーラ様?」

「お嬢様?」

「みんなは、兄様となら夜に一緒に眠ってみたいの? 頼んでみましょうか?」


 メイドたちはそれぞれ、赤くなったり青くなったり、なんだか落ち着かない表情。


「リ、リオノーラ様……、ご冗談を」

「貴族だから、やっぱりそんな遊びはしない? 平民たちは家族で同じ寝室、同じベッドで寝たりするでしょう? 私は行ってないけど、学校で同室になった友人とかとそういう遊びはするんでしょう?」

「遊び……?」


 なんだか私の言っていることがおかしいぞ? と、ついにメイドたちの顔に困惑の色が浮かんだ。


「リオノーラ様、私どもは男女の閨事の話をしたまでで」

「そうです。いくらなんでもソーラス様に添い寝など恐れ多くて口にも出せません」

「でも、兄様がいいよって言ったら、寝るのよね?」


 聞き返すと、メイドたちは一様に頬を染めた。


「そ、それは、逆にお断りするほうが無礼というか」

「ソーラス様ほどの主のお誘いを断れるメイドはよほどの者でないと……」


 この場では、皆の視線がビオラに集まった。

 ビオラは憤って腕を組み、ふんと鼻を鳴らす。


 私はまた首を傾げる。 


「兄様が一緒に寝ようと言ったら、私は一緒に寝れるけど、そういうことじゃないの?」


 びょんと、メイドたちが全員驚きで飛び上がった。


「リオノーラ様?! さすがにそれは不義の道と申しますか!!」

「もちろん、子どもでないのだから少し恥ずかしくはありますよ? でも不義とは? 寝るだけでしょう?」


 私だって、恥ずかしくはあったけれど、ステラと一緒に眠ったことは何度かある。


 その経験もあるから、兄様と同じベッドで寝ろと言われても素直に眠れると思う。


 ビオラが、小さく震えながらメイドたちを代表するかのように口を開いた。


「リオノーラ様、私どもは先ほどから男女の営みについての話をしておりました。……失礼ですが、リオノーラ様は閨事についての知識をどれほど心得ておられますか?」


 メイドたちが真剣な眼差しで私を見つめながら、ゴクリと喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。


「……、……ネヤゴト、とは? 男女の営み? …って、何かするの?」


 そう聞き返した私に、メイドたちは声にならない悲鳴を上げた。





リオノーラ

侍女ビオラ

メイドの皆々

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